14 舞踏会・・・ですか
翌日、魔法騎士の詰め所でいつもと変わらずお茶を入れて魔法騎士に配って歩く。
アウルス様の机の上にもいつも通りお茶を置いた。
びっしりと魔法のことが書かれているノートを眺めているアウルス様は私を気にする様子はないが、今話しかけても大丈夫な雰囲気だ。
「アウルス様、昨日はありがとうございました」
私が声をかけるとアウルウス様はかすかに頷いた。
フランシス様がお茶を飲みながら聞いてくる。
「昨日?何があったの?」
「俺の家に犬を撫でにきただけだ」
私が答えるより早くアウリス様が言うとフランシス様はなぜか驚愕をする。
「アウリスの屋敷に行ったのか?お前が人を家に呼んだだと?」
「普通に犬を撫でただけですよ」
キョトンとしている私に、フランシス様は首を振る。
「いやいや、アウリスのお母様にお会いしただろう?顔がそっくりなんだけれどあの人強引だから、大丈夫だった?」
「何がですか?お茶を飲んで美味しいお菓子をいただきました」
犬のいる部屋で美味しいお菓子を頂きながら美しい伯爵夫人と、アウリス様と同じテーブルでお話しする時間はとても楽しかった。
フランシス様はアウリス様を見つめる。
じっと見つめられてアウリス様は鬱陶しそうにフランシス様を睨みつけた。
「なんだ」
「いや、アウリスのお母様って強引に色々言いそうだけれどさ。それってどうなの?大丈夫だったの?」
含みを持たせた言い方に私は首を傾げるがアウリス様は頷いている。
「それで構わないと思っているが」
「えぇぇぇ!」
フランシス様は椅子から転げ落ちそうなほど驚いている。
「なんですか?」
私が聞くと、アウリス様は無視をする。
フランシス様はアウリス様の肩に手を回してヒソヒソと話し出した。
「それはもう本人に確認をとっているのか?」
「いや?」
「これだからお前はダメなんだよ。俺がいろいろ教えてやるから……」
こそこそ話している2人に私は軽く挨拶をする。
「あの、私マリア姫の仕事があるので今日はこれで失礼しますね」
フランシス様は手を振ってくれたがアウリス様は相変わらず無視だ。
それもいつものことなので気にせずに部屋を後にした。
朝からアウリス様のお茶を出すことができてスキップしながらマリア姫の執務室へと向かう。
今日も舞踏会の準備で忙しい予定だ。
「遅くなりました」
私が部屋へ到着するとマリア姫は難しい顔をして手紙を読んでいた。
「お疲れ様ー。ちょっと聞きたいんだけれど、ミユールはアウリスの事どう思っているの?」
「はぃ?」
到着するなり突然の質問に盛大な声が出てしまう。
驚く私にマリア姫は軽く笑った。
「あぁ、ごめんなさいね。舞踏会で今回魔法騎士も客と一緒に紛れながら警備をしようという案が出ているのだけれど、ミユールとアウリスがちょうどいいかなと思って」
「私がアウリス様と一緒にいるって事ですか?」
今までマリア姫が出席するパーティーは侍女という立場で一応ドレスは着ているが裏方の仕事が多かった。
パーティーの会場を彷徨うことなどなかったが、今回は少し役割が違うらしい。
「アウリスとパーティーに出てもいいってことね?」
念を押すように言われて私は頷く。
「いいですけれど、どうしてそんなことを聞くんですか?」
マリア姫は少しだけ腕を組んで考えてからニコッと笑う。
「ほら、無表情な人じゃない?常に一緒にいたけれどミユール嫌になったかしらと思ったのよ」
「とんでもない。最近はあの無表情から感情が読み取れるようになってきたんですよ」
笑みを見せる私に姫様も微笑んでくれる。
あれだけ揶揄っていた姫様なのにらしくない。
一体何があったのだろうか、私を気づか様子に逆に恐怖を感じる。
「それはよかったわ。ミユールが嫌がっていたらあっちに送ったこと悪いことをしたかしらと思ったのよ。昨日、アウリスのお屋敷に行ったんですってね」
なぜマリア姫がもう知っているのだろうか。
相変わらずの情報通だ。
私が頷く後ろでなぜかソフィーがお盆に乗せていたお茶をこぼしそうになるほど驚いている。
「あの、アウリス様のお屋敷に行ったの?」
「そんなに驚くこと?」
ソフィーは震えるほど驚いている。
私はが呆れて言うと姫様は軽く頷いている。
「ソフィーが驚くのも無理はないわよ。あのアウリスが異性をお屋敷に招待したのよ、この情報はフランシスが吹聴して回っているわよ」
「今朝話したばかりですよ」
なぜフランシス様が言って回っているのか理解ができないが、そんなに驚くことだろうか。
マリア姫は頷いて読んでいた手紙を丁寧に畳んだ。
「まあ、そう言うことだから。当日は私のことは気にしなくていいわ」
「もしかして、私とアウリス様をくっつけようとか考えています?」
嫌な予感がして私が言うとマリア姫は肩をすくめた。
「私がそんな無理矢理なことをすると思う?」
思いますとも言えず私は疑いの眼差しを向ける。
「ミユールが嫌だったら断ってもいいのよ」
マリア姫に言われて私は軽く首を振った。
「せっかくの機会なので警備の方に参加します」
舞踏会に異性と参加できるのはこれで最後だろう。
どうせ結婚もできないだろうし、誰からもお誘いを受けたことがないのだ。
アウリス様と舞踏会に出ることなんて最高の幸せだ。
本当は飛び上がりたいほど嬉しいが、平静を装おって頷いた。
「そう、よかったわ」
マリア姫はそう言ってまた違う書類を読み始めた。
やはりマリア姫が怪しい。
私は訝しんだ目を向けた。
「あの、姫様。何か企んでいますか?」
「失礼ね。私だってちゃんと可愛い侍女達のことを真剣に考えているのよ。ほら、さっさと仕事に戻りなさい」
仕事を本格的に始めたマリア姫から離れるとソフィーに手招きされる。
「何?」
執務室に続く別室に連れ込まれる。
ソフィーは小さい声で私に聞いてくる。
「ねぇ、アウリス様と何か進展があった?」
「ないわよ」
私が即答をするがソフィーは納得していなさそうだ。
「意外とミユールとアウリス様ってお似合いなのかもしれないわね。何考えているかわからないけれどあの人」
「意外といい人よ。気を遣ってくれるし」
私が言うとソフィーは怪訝な顔をする。
「そういえば、アウリス様のお屋敷に何しに行ったの?結婚のご挨拶?」
「まさか、身分が違うわよ。私の実家の犬が死んじゃったの。それで悲しんでいたら、アウリス様のお屋敷の犬に会わせてくれたのよ」
思い出すだけで心が暖かくなる。
ほんわかした気分になっている私にソフィーは意味ありげな瞳を向けてくる。
「ふーん」
「何?」
「私たち友達よね。もし、アウリス様との仲が進展したら逐一教えなさいよ」
脅迫じみた言い方に私は冷めた目を向ける。
「いやよ。何か言ったらすぐに広まるじゃない」
今だってアウリス様のお屋敷に行ったことが朝フランシス様に伝わっただけなのにあっという間に広まっている。
フランシス様とマリア姫とソフィーの三人だけで1時間もあれば城中に情報が行くのではないだろうか。
キッパリ断るとソフィーは不満そうに頬を膨らませた。
「酷いわ。せっかくマーガレットがアウリス様を絶対に手に入れてやるんだからって豪語している情報を手に入れたのに」
「何その情報」
呆れている私にソフィーは真面目に人差し指を立てる。
「あの女、ミユールがアウリス様と仲が良くなったから自分でもいけると思ったんじゃない?」
「男女の仲じゃないわよ」
ますます呆れる私にソフィーは皮肉な笑みを向けてくる。
「どうだか!あんた達が2人で舞踏会に出たらそれこそ噂の的よ」
「私はどうせ結婚できないだろうしどうでもいいけれど、アウリス様に申し訳ないわね」
「あのアウリス様だって結婚できると思えないけれど。無表情で話しかけても無視するような男に惚れる女がいるかしらね」
呆れているソフィーに私は頷く。
「でもかっこいいわよ。アウリス様ほどのお家柄ならお見合いでしょう。きっと素敵なお嬢様とご縁があると思うわ」
想像すると少しだけ胸が痛むが仕方がないことだ。
ため息がちに言う私にソフィーは諦めたように頷いて私を解放してくれた。




