表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

第2話「戻りもの」



夜更け、ふと目が覚めた。

暗闇の中で、何かが擦れる音がする。

ビニール袋が、衣擦れのようにカサリと鳴る。


心臓が跳ねた。

布団から起き上がり、目を凝らす。

部屋の隅に、ゴミ袋があった。

――今日、間違いなく集積所に置いてきたはずの袋だ。


震える手で近づく。

中を確かめる勇気はなかったが、袋は微かに動いているように見えた。

月明かりの下、白い表面に黒い手形が浮かんでいる。

まるで、誰かが中から掴んだ跡のように。


「……っ」


呼吸が浅くなる。

だが、恐怖に抗えず、俺は袋の口を開けた。


鼻を刺すのは、生ごみの臭いではなかった。

それは鉄の匂い、湿った土の匂い――まるで墓場の中に立っているような臭気だった。


袋の中には、見覚えのあるものが混ざっていた。

泥のついた靴。

使い古した手帳。

そして、黄ばんだ写真――そこには子供の頃の俺が写っていた。


「……なんで、こんなものが」


震える手で写真をめくった瞬間、背後でゴトリと音がした。

振り向くと、リビングの隅にまたひとつ、ゴミ袋が増えている。

白い袋が膨らみ、内側から何かが蠢いていた。


耳の奥に、かすかな声が響いた。

ビニールを擦るような音と混ざりながら、言葉に形を成す。


――かえす。

――わすれるな。


頭が割れるように痛む。

理解した。

これはただの“ゴミ”ではない。

俺が過去に捨ててきたもの。

忘れたことにした記憶。

――そして、そのすべてが、俺自身を形作っている。


部屋の隅で袋が次々と積み上がっていく。

そのひとつが破れ、中からのぞいたものを見て、俺は声を失った。


それは俺の顔だった。

真っ黒に汚れ、泥にまみれ、捨てられたはずの“もう一人の俺”が、袋の中からこちらを見上げていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ