第2話「戻りもの」
夜更け、ふと目が覚めた。
暗闇の中で、何かが擦れる音がする。
ビニール袋が、衣擦れのようにカサリと鳴る。
心臓が跳ねた。
布団から起き上がり、目を凝らす。
部屋の隅に、ゴミ袋があった。
――今日、間違いなく集積所に置いてきたはずの袋だ。
震える手で近づく。
中を確かめる勇気はなかったが、袋は微かに動いているように見えた。
月明かりの下、白い表面に黒い手形が浮かんでいる。
まるで、誰かが中から掴んだ跡のように。
「……っ」
呼吸が浅くなる。
だが、恐怖に抗えず、俺は袋の口を開けた。
鼻を刺すのは、生ごみの臭いではなかった。
それは鉄の匂い、湿った土の匂い――まるで墓場の中に立っているような臭気だった。
袋の中には、見覚えのあるものが混ざっていた。
泥のついた靴。
使い古した手帳。
そして、黄ばんだ写真――そこには子供の頃の俺が写っていた。
「……なんで、こんなものが」
震える手で写真をめくった瞬間、背後でゴトリと音がした。
振り向くと、リビングの隅にまたひとつ、ゴミ袋が増えている。
白い袋が膨らみ、内側から何かが蠢いていた。
耳の奥に、かすかな声が響いた。
ビニールを擦るような音と混ざりながら、言葉に形を成す。
――かえす。
――わすれるな。
頭が割れるように痛む。
理解した。
これはただの“ゴミ”ではない。
俺が過去に捨ててきたもの。
忘れたことにした記憶。
――そして、そのすべてが、俺自身を形作っている。
部屋の隅で袋が次々と積み上がっていく。
そのひとつが破れ、中からのぞいたものを見て、俺は声を失った。
それは俺の顔だった。
真っ黒に汚れ、泥にまみれ、捨てられたはずの“もう一人の俺”が、袋の中からこちらを見上げていた。




