第3話「積み重なる声」
袋の山は、夜の闇の中で次々と増えていった。
いつの間にか床はほとんど覆われ、俺の逃げ場は狭まっていく。
「なんで……俺の部屋に……」
声が震え、息が白く濁った。
ゴミ袋が膨らむたび、カサリ、カサリと擦れる音が重なり、やがてそれは言葉のように聞こえてくる。
――かえせ。
――わすれるな。
――おまえのものだ。
耳の奥に、いくつもの自分の声が響いていた。
低い声、高い声、掠れた声。
それはすべて、俺自身の声だった。
ひとつの袋が裂け、中からのぞいたのは泥に塗れた俺の顔。
次の袋が弾け、覗いたのは、血走った目をした俺の顔。
さらに別の袋が破れ、そこからは無表情の俺が這い出してくる。
「やめろ……やめろぉッ!」
俺は必死に袋を蹴飛ばすが、白いビニールは粘つくように足に絡みつき、離れない。
次々と袋が破れ、“俺”が這い出しては床を這い、俺の足首を掴む。
「返せ……忘れるな……」
泥まみれの手が腕を、首を、口を塞ぐ。
声が潰され、息が詰まる。
視界が白く滲んだとき、気づいた。
袋の中から這い出してきたのは、俺が過去に捨ててきた“俺自身”だった。
忘れたい記憶。捨てたはずの後悔。
そのすべてが、形を持って押し寄せている。
積み重なるゴミ袋の山が、ゆっくりと蠢く。
山の頂点で、ひときわ大きな袋が裂けた。
そこから現れた“俺”は、真新しい顔をしていた。
血も泥もなく、今この瞬間の俺そのものの顔。
その口がゆっくりと動き、言葉を紡ぐ。
「――おまえは、もう捨てられたんだよ」
その声を最後に、闇が袋の山とともに俺を呑み込んだ。




