深窓令嬢は動き出す
ようやく落ち着いたハインツからざっと今後のスケジュールを聞いた。
「マリエッタお嬢様にまずは先生を探さなければいけませんね。先生が決まるまでは私がお教えします。」
薫子が想像したよりもマリエッタは少し若い14歳。デビュタントと学園入学へ向け1年後の15歳までに淑女教育と一般教養を身につける必要があった。
またデビュタント後には、婚約者を見つけるためにパーティへの参加も必要で本格的な社交が始まる。基本は両親が婚約者を選定するが、学園での出会いをきっかけに婚約する場合もある。婚約は、デビュタントを待ってからおこなわれるので薫子のいた世界とあまり変わりはない。
(わたくしも聖一さんと15歳で婚約したわ。マリエッタ様も良き人を見つけてほしいわね)
マリエッタが年下と知り薫子は姉のような気持ちでそう思うのだった。
デビュタントに合わせて社交に必要な国内外の歴史、文学、隣国の外国語、またテーブルマナーにダンス、話術などの一般教養を幅広く学ぶ必要があった。
薫子は夢という割に、意外にも学ぶ決意に燃えていた。
(いつ夢から覚めるかわからないけれど、マリエッタ様が戻ってきた時にこの記憶がきっとマリエッタ様のためになるわ。しっかりとやりましょう)
「マリエッタお嬢様、善は急げとはこのことです。できましたら明日からでも私と一般教養の勉強を始めてはいかがでしょうか。」
前のめりなハインツにより提案された薫子は、
「そうですね、では段取りよろしくお願いします。」
と了承したのであった。
1日この世界で生活してみると、風呂トイレなどの水回りが元の世界と同じように利用できシャワーでお湯が使えた。トイレにはウォッシュレット、音姫まであることがわかると薫子は感激した。
(なんて都合の良い世界でしょう!!ここは私の知る中世ではないわね。ということは過去に来たわけではない。アンバランスで混乱したけれど、夢・・・もしくはわたくしの知らない世界があるとしたならばありえるかもしれない)
夜になりディナーの時間が近づいてきた。初めてマリエッタの家族と顔を合わせるが、家族構成がわからないので時間ギリギリに食堂へ向かい「皆さん遅くなりました。」と明るく声をかけて入室する。
するとハインツやリリーのように、マリエッタの家族も驚愕の表情で薫子を見つめてきた。
さすが貴族というべきか、父親らしい男性がすぐ我にかえり薫子を笑顔で迎えてくれた。
「マリー今日はずいぶんと機嫌が良いのだな。」
(この方がお父様でしょうね)
「はい、本日より心を入れ替えましたの。皆さんにご迷惑をおかけしましたこと心よりお詫び申し上げます。」
薫子が静かに謝罪すると、父親の隣に座る美しい女性が目に涙を浮かべ薫子を見つめた。
「おぉマリー、母は・・・母はとても嬉しく思います。」
「お母様申し訳ありませんでした。」
薫子は母親の様子を見て不憫に思った。
両親の向かいに座る青年とマリエッタよりも小さな少年二人からも
「可愛いマリー、私も嬉しいよ。」
「マリー姉様、また一緒に遊んでくださいね。」
と好意的な返事をもらう。
しかしマリエッタ家族とのやり取りは、なぜか薫子を不安にさせた。
(マリエッタ様が謝罪を口にすれば皆がすぐに受け入れてくれるのはなぜかしら。それに、とても良い家族がありながらマリエッタ様はなぜこんなに道を逸れてしまったのかしら?)




