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深窓令嬢は驚かれる

「マリエッタお嬢様!!」


外から別の声に呼ばれ振り向くと、

先程(さきほど)のメイドと一緒にダンディな紳士が立っていた。


「マリエッタお嬢様、何故このようなところに?

リリーが今日のご様子(ようす)について心配しておりましたよ。

できましたらお部屋へ戻られますようお願いいたします。」


(話が聞けるかもしれないし、まずはこの方に従いましょうか)


「皆さんお仕事の邪魔をしてごめんなさいね。」


薫子(かおるこ)は、紳士へにこやかに(うなず)くと元きた通りに足を進める。

二人は薫子の後ろからついてきた。


部屋のドアを開けてもらい、部屋へ戻ると執事がふぅと息を吐き話し始めた。


「マリエッタお嬢様こちらへおかけください。突然お声かけして申し訳ありません。リリー、マリエッタお嬢様にお茶の準備を。」


謝罪するハインツに薫子は目礼(もくれい)で返す。


「さて、マリエッタお嬢様、不躾(ぶしつけ)ではありますが私から質問させていただいてもよろしいでしょうか。」


「もちろんです。」


薫子が肯定すると、ほっとした様子で話し始めた。


「マリエッタお嬢様は、その、昨日までとずいぶん雰囲気(ふいんき)が変わられたようで、何かご事情があるのでしょうか。」


「そうね、・・・きっと驚くこともあるでしょうけど聞いていただけますか?」


薫子は下を向き静かに話し始める。


「実は、わたくし心を入れ替えましたの。わたくしも、その、年頃ですし?そろそろしっかりしないと、と思いまして。」


息を吐くように嘘をついた薫子が(おそ)る恐る様子を見ると、2人がぶわっと泣き出した。


??????


(あらあら、わたくし何か変なことを言ったのでしょうか。今までの情報から(おおむ)ね間違ったことは言っていないと思うのですが。まさか違う人物なのですとは言えませんもの。泣きながらお二人とも喜んでいるような気がするのだけど、違うかしら)


僭越(せんえつ)ながら申し上げます。私ハインツは、マリエッタお嬢様がお生まれになってからずっとお嬢様を見守ってまいりました。お嬢様は、それはすくすくとお育ちになりましたが、ある日を境に急にマリエッタお嬢様の素晴らしい笑顔が見られなくなり、私たちはただお嬢様を心配するばかりで何もできず。マリエッタお嬢様は、いつの間にか我々(われわれ)の手を離れ、ご家族の手を離れ、あまりに離れて誰の手も(つか)まず、孤高(ここう)の存在となり数年が過ぎてしまいました。マリエッタお嬢様も14歳、遅れているデビュタントへ向けた淑女教育(しゅくじょきょういく)を進めたく思っていたところです。それがマリエッタお嬢様自ら自覚(じかく)されるなんて。私はとても嬉しくて。」


長台詞(ながぜりふ)を一息で話すハインツに


(執事ってこんな赤裸々(せきらら)でいいのかしら)


薫子がまた心配し始めると、


「私も嬉しいです。」


リリーと呼ばれたメイドも話し始める。


「私の前に2年で5人も専属メイドが替わり、半年前から勤め始めました私にはいつも無表情(むひょうじょう)(にら)みつけられ、お礼など皆無(かいむ)。言葉は全て小言(こごと)怒声(どせい)。もちろん挨拶もなく殺伐(さつばつ)とした中でいつクビになるか胃を痛めながら勤めておりました。私は、以前よりメイドとして仕えてましたので前のマリエッタお嬢様のことも存じ上げておりました。私はこの記憶を(かて)に勤めてきたのです。」


(ひーそれは、ずいぶんなパワハラではないですか。恐ろしいわ、訴えられたら負けますよ?)


薫子はお嬢様だ。でも薫子は橋本に威張(いば)った記憶はない。お嬢様は決して偉そうにする必要はないのだ。生活を支えてもらう彼らと円滑(えんかつ)なコミュニケーションをとるにこしたことはない。

橋本は、家族のように薫子の側にいる存在だった。橋本との関係を思うと主人を選べない二人に心から同情した。またマリエッタが昔から悪いわけではないことを知り安堵(あんど)した。


「そうだったわね。ごめんなさい。私、ずっと自棄(じき)だったのよ。子供だったのね。生きる意味を見失っていたかもしれないわ。こんな私を見捨(みす)てずにいてくれてありがとう。家のためにこれからどうすればいいかしら。淑女教育もしっかり取り組むから今後すべきことを教えてくださいな。」


薫子は、前向きに進もうと決めていた。


(マリエッタ様という方になったのだから、夢から覚めるまでは頑張りましょう)


薫子の意気込みに、感極(かんきわ)まった二人は同時に


「「マリエッタお嬢様!!」」


と言葉をつまらせた。


執事とメイドは失礼なことを言ったにも関わらず、「この」マリエッタが怒声もなく謝罪した姿に感動した。2年前、急に性格が変わり元のマリエッタお嬢様に戻らないのではと心配してきたのだ。


今度も、また違う誰かになられたのだろか。

それでもこの方ならば・・・


2人の心の内まで、薫子が気づくことはなかった。

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