深窓令嬢と兄
薫子は人生初の土下座をして急に甘いものが欲しくなった。
「皆様、レックス様へのご説明も済みましたので、わたくしは失礼いたします。」
薫子が厨房でおやつをいただこうと考えながら退出しようとすると、
「待ってください、カオルコ様。もう少しあなたのお話しを聞かせてくれませんか?」
アルシャードが薫子を引き留める。
(甘いものを欲していますが仕方ない。説明して欲しいお気持ちはわかりますわ。)
すぐに気持ちを切り替えると、アルシャードに向き直る。
(甘いものはその後でいただけばいいじゃない。逃げも隠れもしないんだから。)
未練たらたらな薫子だったが、令嬢たる者、自分の気持ちを見せないすべも身につけている。
「もちろんです、何でも聞いてくださいな。」
薫子が笑顔で応じると、
「お疲れでしょう、場所を変えてお茶でもしながら話を聞かせてください。カオルコ様は甘いものはお好きですか?お茶と合わせてケーキを用意させます。ご令嬢は甘いものが好きと聞きますので。」
(あら、できた方!将来マリエッタ様を捨てるなんて今のところは思えないわ。)
薫子はアルシャードへの評価を少し上向きに修正した。
「はい、好きですわ。お心遣いいただきありがとうございます。」
薫子とアルシャードは、テラスに向かい合って座る。用意されたケーキは苺のケーキで、早く苺にフォークを突き刺して食べてしまいたい。
「改めて薫子様、ありがとうございました。薫子様がプロストレーションすると思わず、驚きました。ここまで妹のためにしていただくと、こちらもカオルコ様にお返しができなくなってしまいます。」
「 プロストレーション?とはどう意味でしょう。おそらく似た意味で行ったと思うのですが、教えていただけますか?」
「 プロストレーションは、完全に地面に伏す礼なのですが、宗教儀式や神への服従で使われます。レックスへあのような礼をすると思わず、私も動けずにおりました。おそらくレックスも同じでしょう。ちなみにカオルコ様は、どのような意図でしたでしょうか?」
「そうですね、まぁ同じ意図です。私の国では最上級の謝罪方法となります。」
「そうでしたか、カオルコ様が悪いわけではないのに。あなたは女神のようにお優しいのですね。」
アルシャードは、笑顔で薫子を褒め称えた。
(ジャパニーズ土下座は、異世界でも通ずる。
世界超え それでも伝わる 土下座かな)
薫子は、心の中で一句読みご満悦だ。そのまま、ケーキを一口食べる。
「美味しい。侯爵家の料理人は素晴らしいですね。」
笑顔で食べ進める薫子、その笑顔になぜか赤面するアルシャードのことには気がつかなかった。




