二話 村一番の知恵者
乱暴に投げ込まれた先は、牢の中だった。
「ここで一晩反省してろ! 露出狂が!」
怒り心頭という様子で兵たちが去っていく中、アデクは腕を組み考える。
「……解せぬ」
村一番の知恵者であるアデクは、王への直訴が命を賭けるものだと知っている。
それを知るからこそ、村人の代わりに自分が赴いた。
そのはずなのに、何故か言い渡されたのはたった一晩の沙汰。
ついでに言えば変質者という不名誉な扱いも受けている。
状況が何一つ理解出来ない。
それと、牢に投げられる際、布切れもついでに投げられた。
最初は毛布かと思ったが、毛布は既にある。
何故、布を渡されたのだろうか。
ここは毛布が二枚ないといけないくらい冷え込むのだろうか。
わけがわからない。
わからないことばかり。
やはり、都会の事情は複雑だ。
アデクは村一番の知恵者である。
けれど所詮は井の中の蛙。
田畑を耕し牧歌的に生きる自分と、忙しなく磨かれ続ける都会の知性では大きな隔たりがあるのは当然のことだ。
アデクは己が知識不足を受け入れるや否や、マントを放り投げ、逆立ちとなり腕立て伏せを始めた。
それは彼が最も深く思考出来る姿勢。
村一番の非力ボーイであった彼が、周りに対抗できるのは、その知恵のみであった。
毛布二枚の謎は、わからない。
それは考えても理解出来ないから、別のことを考える。
つまり――王について。
「何故、王は俺を生かした?」
そう――彼が真に邪知暴虐たる王ならば、あの場で首を刎ねていなければおかしい。
玉座を血で汚したくないというのなら、今こうして牢屋に閉じ込めているわけもない。
しかも明日釈放と言った。
わけがわからない。
「明日釈放は嘘で、敢えて絶望させるために? いや、それならもっと希望を持たせるはず。そのような意図は感じなかった。それに、兵たちも釈放されるのを信じている様子だった」
ぶつかり合えば、筋肉で触れ合えば、彼らのことは理解出来る。
彼らは己を殺すべき邪悪と捉えていない。
ただ任務に忠実で、必死に王を護ろうとしていた。
ただし本気で気持ち悪いとは思っている様子だった。
田舎差別だろう嘆かわしい。
ぐっ、ぐっ……と、何度も腕を曲げては立てるたびに、身体に滴る汗が熱気により蒸気に変わっていく。
ようやく、身体に続いて頭も温まってきた。
王への諫言を持って命を許された理由。
牢屋に閉じ込められた理由。
その二つが繋がり、アデクの高度なインテリジェンスが答えを導き出す。
「王は……俺を待っている!」
そう――この牢は王からの挑戦状。
王たる者は常に独り。万人を相手になど出来ようはずもない。
ゆえに選別は必要なる工程。
知恵を用いて牢を脱出し、再び会いまみえた者の話のみ、王は聞く。
つまり、これは最初から定められた試練。
変質者などの汚名は後付けの捏造に過ぎなかった。
「ぬぅ……。俺としたことが……こんな簡単な答えに気づくのが遅れるなんて……」
人と人は分かり合える。
それが、知恵を勇気だけを武器にして(来たと思い込んでいる)今日まで生き抜いてきたアデクの人生が導き出した結論だった。
「ならばすぐ、王の元に向かい、そして真意を問いたださねば!」
立ち上がり、ゆっくりと呼吸を整える。
身体の熱は冷めていくが、心の熱は燃え盛る一方だった。
キッと目を見開き、研ぎ澄まされた知性を持って答えを探す。
これが問答ならば、脱出の答えが必ずある。
投げ捨てられた金属のスプーン。
ぐらつく鉄格子に支えられた、外に通じる窓。
天井には通気口があり、床のレンガはところどころ崩れ、柔らかい土が見えている。
あまりの堅牢っぷりにアデクは恐れおののく。
それでも、彼は知の力を知っている。
力ではどうしようもない事柄であっても、知恵を使えば突破出来るのだと――。
「――見えた! これが俺の答えだ!」
アデクは鉄格子の棒を腕で掴み、強引に左右に引っ張りだした。
「ぬぅぅ……うぉぉぉぉおおお! マッスル頭脳パワー!」
筋肉がバンプアップされ、アデクの目に力が籠ったその瞬間、鉄格子が飴細工のようにぐにゃりと曲がった。
「……これが、知の力だ」
全身から溢れる熱気が蒸気する。
まるで、湯気のように。
そのまま隙間から通ろうとして……ぎちっと、鉄格子に行く手を阻まれた。
「……あれ?」
捻じ曲げた鉄格子は、一般男性くらいならばやすやすと通れただろう。
けれど、アデクの身体はそれほど小さくなかった。
計画がズレたアデクは腕を組み、考え込んだと後……扉の鍵口を拳で粉砕した。
ありがとうございました。




