新たな王朝
部屋へ戻ると、明慧が待っていた。
「厄介ごとが舞い込みましたね」
「断れば、もっと厄介になる」
皇宮の兵の動きを見ていれば、何が決まったのかは明慧にも分かっただろう。
「それで、皇帝になることをお引き受けになったのですか」
「まだ即位はしていない」
「時間の問題でしょう」
天曜が以前の立場へ戻れないことは、二人とも承知していた。
「偽神託のことは、どうなさいます」
「公にする。香蘭は偽りの巫女であり、蓮瑛殿が真の巫女だと」
「天曜様が事前に知っていたことも?」
「隠さない」
雲水は息子を帝位へ就けるため、自分一人の策だったと言うかもしれない。だが、天曜はその言葉に守られるつもりはなかった。
「偽神託を企てたのは父上、告げたのは神官長だ。私は知りながら止めなかった」
「新帝が神龍を欺いたと、反対する者が出ます」
「出るだろうな。だが、蒼天殿にいた者たちは既に知っている」
即位した後で関与を隠したと知られれば、蓮瑛を救うためだったという説明さえ信じられなくなる。
「蓮瑛殿を皇后から守るためだったことも公にする。罪が消えるとは言わない。なぜ加わったかまで明らかにするだけだ」
「そして、真の巫女と会って帰還した日に雨が降った」
「蓮瑛殿が、次の皇帝として私を選んだとは言わせない」
「事実だけで十分です。あとは民が好きに意味をつけることでしょう」
朝廷が偽りを布告することは止められる。民の間に生まれる噂までは禁じられなかった。
「ほかには」
「父上たちの処分、旧帝と皇族への裁定、即位の手順、地方への布告――」
「もう結構です」
明慧が知りたいのは、仕事の数ではなく、天曜が何から始めるつもりかだった。
「まずは何をなさいますか」
「眠る」
「起きたら、すべて待っておりますよ」
「寝ている間に減っているとは思っていない」
天曜は寝台へ向かった。
「一刻後に起こせ。それまでに、急ぐものから分けておけ」
「私にも厄介ごとが舞い込みましたね」
「今さらだろう」
■■■
皇帝は正式に廃位された。
ほどなく、天曜は新たな王朝の初代皇帝として即位した。各地の軍へ兵を動かさぬよう命じ、旧皇族を奉じる家からの使者を退けた後、天曜は廃帝の処遇について文官たちと向き合った。
「遠国へ移し、監視をつけるべきかと」
文官の一人が進言した。命まで奪わずに済むなら、その方がよい。天曜も、そう考えたかった。
だが、廃帝は蓮瑛を取り戻すためなら、碧砂国との戦も辞さないと言った。宮門が閉じられた夜から、その皇統を奉じる者たちは動き始めている。
生かして遠国へ移しても、廃帝の名を掲げる者が兵を集めれば、再び戦になる。
天曜は裁定を記す文書を前に、言った。
「廃帝には、死を賜う」
廃后についても、蓮瑛への毒害と勅命への背反が改めて確認され、既に言い渡されていた死罪は覆らなかった。皇后の実家では、毒害と蓮瑛の追放に加わった者だけが裁かれた。
ほかの旧皇族は帝都を離され、定められた土地から許可なく出ることを禁じられた。罪を犯していない者まで命を奪われることはなかったが、皇位を求めることも、兵を集めることも許されなかった。
偽神託の真相も公布された。
蓮瑛こそ神龍に選ばれた巫女であり、香蘭を新たな巫女とした神託は、雲水と神官長による偽りだった。天曜は、二人の策を事前に知りながら止めなかったことを、自らの名で出す布告に記させた。皇后のもとで傷つけられていた蓮瑛を守ろうとした事情も、あわせて明らかにした。
雲水と神官長は、ともに死罪に当たるとされた。しかし、真の巫女を皇后から守ろうとした事情により、一等を減じられた。
雲水は丞相位を失い、それに伴って得た領地と財産を没収されたうえで、遠国へ流された。神官長もすべての位を剝奪され、遠国へ流されて、二度と神殿へ戻ることを許されなかった。
香蘭は巫女位を剝奪され、巫女として得た褒賞のすべてを没収された。新帝の妹として恩典を受けることもなく、偽りの巫女として帝都から追放された。
天曜が北方戦役から凱旋した将軍であり、真の巫女と会った帰路で雨に恵まれたことは、帝都でも広く知られていた。朝廷は、天曜が龍の巫女に選ばれた皇帝だとは布告しなかった。それでも民の間では、蓮瑛の加護を受けた新帝なのだと語られるようになった。
新帝となった天曜の名で、最初の国書が西の碧砂国へ送られた。
次回、最終回です。蓮瑛とシンシャ、そして天曜の物語を、最後まで見届けていただけたらうれしいです。




