二通目の国書
龍華国からの使者が碧砂国の王宮へ到着したのは、それから半月後だった。
使者が携えてきた国書には、立天曜が新たな王朝の皇帝として即位したことが記されていた。
シンシャが龍華国から国書を受け取るのは、これが二度目だった。
一通目の国書は、龍の巫女を碧砂国王の妃として遣わすと、一方的に告げるものだった。そこには蓮瑛の意思も、碧砂国の返答を待つ言葉もなかった。
新帝の名で書かれた国書は、それとは異なっていた。
龍華国は、蓮瑛と碧砂国王との婚姻を正式に認め、彼女の帰還を求めない。
今後、両国の永き友誼を望むと記されていた。
「蓮瑛様を連れ戻すおつもりはないのですね」
「ああ」
天曜は蓮瑛を妻に望んでいた。皇帝となった今なら、真の巫女を龍華国へ戻すよう求めることもできたはずだ。
その天曜が、新帝として最初に送った国書で、彼女とシンシャとの婚姻を認めた。
国書には、それ以上の言葉はなかった。
敵に回したくない男だと思っていた。
国を隔てて友誼を結ぶ相手となった今も、その評価は変わらなかった。
「返書を用意しろ」
「どのように」
「新帝の即位を祝し、我が国も龍華国との友誼を望むと伝えろ。婚姻を認めた旨も、確かに承ったとな」
ランフォンは返書の文案を整えるため、書記官を呼ばせた。
「蓮瑛様には、陛下からお伝えになりますか」
「ああ。私が伝える」
■■■
「天曜様が、皇帝に」
国書の内容を聞いた蓮瑛は、遠い国の出来事を確かめるように繰り返した。
天曜が新たな王朝を開き、龍華国の皇帝となった。
龍華国は蓮瑛とシンシャとの婚姻を認め、彼女の帰還を求めない。今後は、碧砂国との友誼を望む。
「そう書かれていた」
「そうですか」
蓮瑛にとって、龍華国はもう帰る場所ではなかった。それでも、そこで暮らす人々のことまで忘れたわけではない。
「龍華国では、雨は降ったのでしょうか」
「ああ。天曜殿が帝都へ戻った日に降ったそうだ」
「その日に?」
「田畑を潤すには十分な雨だったらしい。その後も折々に雨があり、枯れかけていた作物にも望みが戻ったと、使者が話していた」
龍華国に降った雨が、何に応えたものなのかは分からない。
蓮瑛が碧砂国から捧げた祈りが届いたのかもしれない。新たな皇帝を迎えた龍華国へ、神龍が恵みを与えたのかもしれなかった。
「よかった」
雨を待ちながら畑を耕していた者たちも、再び実りを待つことができる。
「返書は、もうお出しになったのですか」
「明日には出す」
「まだ、お仕事が残っているのではありませんか」
「急ぐものは終わった」
空はまだ明るいが、王都の建物には西日が長い影を落とし始めている。
「それでしたら、参りましょう」
蓮瑛はシンシャへ手を差し出した。
「どこへ行くつもりだ」
「今日は城壁から砂漠を見せてくださると、おっしゃったでしょう」
シンシャはその手を取った。
二人が城壁へ着く頃には、陽が砂の彼方へ沈み始めていた。
どこまでも続く砂漠から金色が消え、静かな青が広がっていく。
蓮瑛はシンシャと手をつないだまま、日が沈みきるまでその景色を眺めていた。
終
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
蓮瑛が自分の望む場所で、大切な人とともに生きていくところまで書くことができました。
ここまで見届けてくださった皆さまに、心より感謝いたします。
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