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砂漠の王と追放された龍の巫女  作者: 小笠原ゆか


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偽りの神託

「用済みの巫女」と本話の間に、天曜が帰還後、香蘭と再会する一話を追加しました。先に本話をお読みになった方も、目次からお読みいただけます。

天曜が蒼天殿へ入ると、朝議に連なる者たちはすでに揃っていた。


皇帝の左右には文官が並び、その手前には禁軍を統べる大将軍と、配下の将たちが控えていた。雲水と神官長は、他の者から離れて中央に立っていた。


天曜が拝礼を終えると、皇帝はその後ろへ目を向けた。


「蓮瑛はどこだ」

「その前に、陛下へ明らかにしなければならないことがございます」

「蓮瑛の所在より先に申すべきことか」

「龍の巫女が誰であるかに関わることでございます。立丞相より申し上げます」


雲水は、その場に膝をついた。


「香蘭を新たな龍の巫女とした神託は、偽りでございます」


蒼天殿から物音が消えた。

皇帝は、聞いた言葉の意味を確かめるように雲水を見た。


「偽りだと」

「亀甲には、新たな巫女を示す徴など現れておりませんでした」


神官長も雲水の隣へ膝をついた。


「私が、徴が現れたと偽って告げました」


皇帝が立ち上がった。


「お前たちは、私を謀ったのか」


雲水も神官長も否定しなかった。


「偽物を私の前へ差し出し、神龍に選ばれた巫女として扱わせたのか。香蘭へ褒賞を与えた時も、蒼天殿で雨を祈らせた時も、黙って見ていたというのか」

「左様でございます」

「二人を捕らえよ」


近衛が直ちに進み出た。


「香蘭も丞相邸から出すな。三人とも、私と神龍を欺いた罪で裁く」


剣を帯びた近衛が、雲水と神官長の両側へ立った。

神官長は顔を上げた。


「処罰はお受けいたします。その前に、なぜ偽りを告げたのか、お聞きください」

「命乞いなら聞かぬ」

「蓮瑛様が、皇后陛下に殺されかけていたためでございます」


近衛の手が止まった。


「何の話だ」

「蓮瑛様は、雨を止められないたびに傷を負って蒼天殿へ来られました。一度ではございません。このまま皇宮へ置けば、神龍に選ばれた巫女の命が失われると判断いたしました」

「それで、神龍の言葉を偽ったというのか」

「はい」


神官長は助命を求めなかった。


「蓮瑛様を守るためであったとしても、神託を偽った罪は消えません。神官長の地位を退き、命をもって償う覚悟でございます」


皇帝は、二人を連れ出そうとする近衛を制した。


「雲水。お前が持ちかけた策か」

「左様でございます」


雲水も、自分の目的を隠さなかった。


「香蘭を新たな巫女として陛下のおそばへ置き、蓮瑛様を役目から解く。皇宮を出た後は立家で引き取り、暮らしに不自由はさせず、必要な時には祈っていただくつもりでございました」

「龍の巫女の力を、立家のものにするつもりだったのか」

「蓮瑛様を皇后陛下のもとへ置けば、いずれ命を失います。立家であれば、その命も力も守れると判断いたしました」

「天曜との婚姻も、お前の策か」

「そのつもりでございました」


雲水の答えによって、皇帝の追及は天曜へ向けられた。


「お前も知っていたのか」

「存じておりました」

「いつからだ」

「香蘭を新たな巫女とする神託が下る前からでございます」


天曜は、雲水が用意した筋書きを知りながら止めなかった。蓮瑛を立家へ迎え、自分の妻とすることにも異を唱えなかった。


「ならば、お前も私を欺いたのではないか」

「その通りでございます」

「なぜ黙っていた」

「蓮瑛殿を皇后陛下のもとから救い出すには、ほかに手立てがないと考えました」


皇帝の視線が、雲水と神官長から天曜へ移った。

天曜はもはや、二人の罪を告発するためだけに立っているのではなかった。


「蓮瑛を妻に迎えることも承知していたのか」

「はい」

「龍の巫女を立家へ囲い込むためにか」

「蓮瑛殿をお守りするためでございます。ただし、その力が立家にもたらすものを考えなかったとは申しません」


皇帝は天曜から雲水、神官長へと視線を移した。


「雲水と神官長を捕らえよ」


近衛が二人の両側を固めた。

だが、皇帝は天曜を捕らえるようには命じなかった。


「天曜。お前の処分も後で定める。それまでは皇宮から出ることを禁ずる」

「承知いたしました」


皇宮の門前には、天曜に随行してきた西方諸隊の兵が待っている。その存在を、この場にいる者が忘れているはずはなかった。


「まず、皇后が蓮瑛へ何をしたのか、すべて申せ」


雲水が合図すると、文官の一人が数通の調書を差し出した。

天曜が碧砂国から商人に託した書状を受け取った後、雲水が密かに証言を集めさせたものだった。


皇后に仕えていた女官。

蓮瑛の食事へ薬を混ぜた侍医。

蓮瑛を皇宮から運び出した御者。


それぞれの供述は、すでに照合されていた。

皇帝は、一通目を読み終える前に手を止めた。


「この毒は、誰が用意させた」

「皇后陛下でございます」


長く摂り続ければ、身体を衰弱させる毒だった。

皇宮にいる間、蓮瑛は食事とともに少しずつそれを与えられていた。皇宮を離れてから症状は改善し、碧砂国へ入った後には再び雨を呼んでいる。


「では、蓮瑛が雨を止められなかったのは」

「毒による衰弱が、祈りへ影響していたものと考えられます」


神官長の答えを聞き、皇帝は次の調書を開いた。


そこには、蓮瑛への折檻について記されていた。

雨を止められないことを理由に扇で打ち、倒れた後も許さなかった。傷を見た者も、皇后の罵声を聞いた者も一人ではない。


最後に、皇帝は御者の供述を読んだ。


「蓮瑛を碧砂国まで送り届けるなと命じたのか」

「国境を越え、人の住まない場所まで運んだ後、荷車を捨てて戻るよう、皇后付きの女官から命じられております」

「蓮瑛には、どれほどの水を与えた」

「数日分にも足りません」


雲水が答えた。


「天曜」


皇帝に呼ばれ、天曜は碧砂国で知ったことを告げた。


「御者が逃げた後、蓮瑛殿は残された驢馬を連れ、一人で砦を目指されました。発見が遅ければ、命を落としていたでしょう」


皇帝は調書を卓上へ置いた。


「皇后を連れてこい」


近衛が動いた。


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