幕間 用済みの巫女
西方からの早馬が帝都へ到着したのは、空にも雨雲が広がり始めた頃だった。
「立将軍が国境を越えられた直後から、西方一帯で雨が降り始めたとのことでございます」
使者の報告に、朝議の場がざわめいた。
季節の雨が途絶え、各地の田畑は乾き始めていた。その雨が天曜の帰還と同時に降り始めたため、街道沿いの民は、立将軍が雨を連れてきたと喜んでいるという。
皇帝が最初に尋ねたのは、雨の量でも、田畑の様子でもなかった。
「蓮瑛も一緒なのだな」
使者は返答に詰まった。
「龍の巫女を連れ戻したから、雨が降ったのであろう」
「蓮瑛様が御一緒との報告は、届いておりません」
答えたのは雲水だった。
皇帝は不快そうに雲水を見た。
「では、誰が降らせたというのだ」
香蘭が蒼天殿へ籠められてから、すでに幾日も過ぎていた。その間、一滴の雨も降らなかった。
誰も、香蘭の祈りが届いたのだとは言わなかった。
「お前の娘が新たな巫女に選ばれなければ、蓮瑛を手放すこともなかった」
蓮瑛を碧砂国へ送ると決めたのは、皇帝と皇后だった。それでも皇帝は、失ったものの責任を香蘭と雲水へ負わせた。
「天曜が帝都へ到着し次第、直ちに参内させよ。一行を確かめ、蓮瑛がいれば必ず皇宮へ連れてこい」
「では、香蘭の祈祷は、いかがいたしましょう」
雲水が尋ねた。
「もうよい。蒼天殿から出せ」




