幕間 雨を降らせよ
香蘭が新たな龍の巫女に任じられてから、ひと月が過ぎようとしていた。
ひと月以上も降り続いていた雨が止んだのは、香蘭に神託が下って数日後のことだった。
新たな巫女の祈りが神龍へ届いたのだと、人々は聞かされていた。その功績を称える声の中、香蘭は正式に龍の巫女へ任じられた。
しかし、それ以来、龍華国では一度も雨が降っていなかった。
今すぐ水が不足するわけではない。川にも井戸にも、まだ十分な水がある。
雨を必要とする時期を迎えた土地から願いが届くたび、香蘭は神殿で雨乞いの祈祷を行った。だが、空に雲が集まることも、風向きが変わることもなかった。
一度で雨が降らぬのなら、もう一度祈ればよい。日を改め、供物を増やし、神官達も加わって祈りを捧げた。
それでも雨は降らなかった。
祈祷が何度も実を結ばなかったことは、皇帝の耳にも入った。
「龍の巫女であるならば、雨を降らせることができるはずだ。雨が降るまで祈らせよ」
皇帝の命を受け、香蘭は再び神殿へ入った。空に雲が集まることはなかった。
人々の間で、疑問が囁かれるようになった。
「新しい巫女様は、雨を止めることはできても、降らせることはできないのだろうか」
龍の巫女とは、神龍の加護を受け、天候を操る者である。だが、香蘭がどれほど祈っても、空は青く晴れ渡ったままだった。
やがて、別の疑問を口にする者が現れた。
「あの長雨も、本当に香蘭様が止めたのか?」
雨が止んだのは、香蘭が正式に龍の巫女へ任じられる前だった。当時は誰もが、神託を受けた新たな巫女の祈りが届いたのだと信じていた。
しかし、その後は一度として祈りがかなっていない。
あの晴天も、本当に香蘭がもたらしたものだったのか。
一度生じた疑念は、消えることなく人々の間に広がっていた。




