西街道を追って
西街道へ入って三日目、天曜は街道沿いの宿場で、雲水が捜索に出した者達と合流した。
彼らは花嫁行列を追っていた者達である。馬車に蓮瑛が乗っていないと判明した後、任命の儀以降に街道を通った不審な一行について調べるよう命じられていた。
「何か分かったか」
「この宿場で馬や荷車の世話をしている男が、気になる荷車を覚えておりました」
呼ばれてきた男は、任命の儀の翌日、古い荷車が宿場に立ち寄ったと話した。
「御者は男が一人。荷台には若い娘が乗っていました」
「娘の様子は?」
「横になったままで、顔までは見えませんでした。髪や身体つきから、まだ若い娘だろうと思っただけです。ひどく具合が悪そうだったので、医者を呼ばなくてよいのかと尋ねたんです」
「御者は何と?」
「都で病を患ったので、碧砂国にいる親族を頼るのだと」
蓮瑛に碧砂国の親族などいない。
「他に、何か気づいたことはないか?」
「荷物が妙に少なかったですね」
荷車に積まれていたのは、わずかな水と食料だけだった。遠方の親族を頼るというわりに、衣類や家財らしき荷はほとんどなかったという。
「病気の娘をあれほど遠くへ連れていくにしては、旅支度が足りないと思いました。ですが、御者も話しかけられたくない様子でしたので、それ以上は関わりませんでした」
「荷車はどちらへ向かった?」
「西です。碧砂国との国境へ続く道へ」
任命の儀を最後に、蓮瑛の姿を見た者はいない。その翌日に、病人らしい若い娘を乗せた荷車が西へ向かっている。
蓮瑛だと断定はできない。だが、調べる価値はあった。
「この荷車を追う」
天曜が告げると、雲水の部下が答えた。
「既に先の宿場にも人を向かわせております。街道の途中には北や南へ分かれる道もございますので、我々は手分けして調べます」
「証言を得たら、先の宿場へ伝言を残せ。父上への報告も絶やすな」
天曜と明慧は西街道を進み、雲水の手の者達は街道沿いの宿場と、途中で分かれる脇道へ散った。
数日後、次の宿場でも同じ荷車を見た者が見つかった。御者はそこでも、病気の娘を碧砂国の親族へ送り届けるのだと説明していた。娘を荷車から降ろすこともなく、水と食料だけを買って出発したという。
その先の村でも、古い荷車についての証言が得られた。
誰も娘の顔を見ていない。それでも荷車の特徴と通過した日をつなぎ合わせれば、足取りは西へ続いていた。
天曜が帝都を発った時には、荷車は既に国境へ近づいていた。早馬を使っても、宿場や村で証言を確かめている間に、差は思うように縮まらなかった。
やがて、街道沿いの最後の集落で、先行していた雲水の部下と再び合流した。
「この先へ向かったのは間違いございません」
男は、集落で得た証言を天曜へ伝えた。
驢馬が引く古い荷車には、御者の男と病人らしい娘が乗っていた。荷車が向かった先には、もう碧砂国との国境しかない。
「我々も砦まで同行いたします」
「いや。ここから先は、私と明慧だけで行く」
「しかし――」
「大勢で他国の砦へ近づけば、軍勢と疑われる。私には皇帝陛下から蓮瑛殿への訪問を許された書状があるが、お前達にはない」
雲水の部下達は、皇帝の勅命に背いて蓮瑛を奪うために動いていた者達でもある。他国で身元を調べられれば、立家の計画まで露見しかねなかった。
「父上には、蓮瑛殿と思われる娘が国境へ向かったと伝えろ。お前達は龍華国側に残り、ほかの道から運び出された可能性がないか、引き続き調べてくれ」
「承知いたしました」
天曜と明慧は馬を替え、二人だけで国境の砦へ向かった。
日が傾く頃、砂漠との境を守る碧砂国の砦が見えてきた。
ここまで追っても、蓮瑛を乗せた荷車には追いつかなかった。既に国境を越えている可能性が高い。
「天曜様、どうなさいますか」
明慧の問いに、天曜は馬の速度を落とした。
二人だけとはいえ、龍華国の武官が武具を携えたまま他国の砦へ近づけば、警戒されるのは当然だった。
「正面から訪ねる。ここまで来て、無用な争いを起こすわけにはいかない」
二人は砦の手前で馬を降り、武具を外した。
皇帝は、天曜なら蓮瑛が国境へ着く前に追いつけると考えていた。天曜もそのつもりで帝都を発ったため、碧砂国へ遣わされた正式な使者ではない。
それでも、将軍としての身分を示す官符と、兵部の官印が押された書状はある。書状には、軍功への褒賞として、天曜が蓮瑛を訪ねることを皇帝が許した旨が記されていた。
天曜と明慧は、馬を引いて砦の門前まで進んだ。
「止まれ」
門を守る兵士から声が飛ぶ。
天曜はその場で足を止め、官符と書状を取り出した。
「龍華国の立天曜と申す。先代の龍の巫女、蓮瑛殿について伺いたいことがある。砦の責任者へ取り次いでいただきたい」
兵士は二人を警戒したまま、別の兵を呼んだ。官符と書状が砦の中へ運ばれ、天曜達は門外で待たされた。
「どれほど待たされるでしょうか」
「向こうが納得するまでだ」
「今夜中に返事がなければ?」
「ここで野営する」
天曜は砦へ入る許可を求めている立場だった。将軍だからといって、他国の門を開けさせる権限はない。
やがて兵士が戻り、二人は武具を預けたうえで砦の中へ通された。
本日は二話更新です。
続けて「無事の報せ」も掲載しておりますので、あわせてお読みいただければ幸いです。




