↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂漠の王と追放された龍の巫女  作者: 小笠原ゆか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/42

青い砂漠

雨が降った翌日の夕刻、シンシャは蓮瑛を王宮西棟の展望廊へ招いた。


展望廊からは、王都と、その向こうに広がる砂漠を一望できる。壁際には、いくつかの長椅子が置かれていた。

シンシャは蓮瑛と並び、欄干の前に立った。


「昨日、この国を知ってほしいと言っただろう」

「そのために、こちらへお招きくださったのですか?」

「ああ。貴女に見せたいものがある」


雨に洗われた空は澄み、遠くの砂丘までくっきりと見えた。西へ傾いた太陽が、王都の土色の建物と、その先に続く砂漠を黄金色に染めている。


「砂漠なら、こちらへ来る途中にも拝見しました」

「今はまだ、いつもの砂漠だ。もう少し待ってくれ」


蓮瑛は不思議そうにしていたが、言われた通り欄干の向こうを眺めていた。


やがて太陽が地平へ近づき、砂の輝きが薄れていく。

黄金色だった砂丘の陰に、淡い青が差した。その色は砂の起伏に沿って次第に広がり、間もなく、見渡す限りの砂漠が深い青に包まれた。


蓮瑛は、青く染まった砂漠から目を離さなかった。

驚かせることには成功したらしい。シンシャは満足しながら、青く染まった砂漠へ目を向けた。


「これが、碧砂国の名の由来だと言われている」

「国境へたどり着く前にも、青い砂を見ました」

「あの時にも?」

「はい。けれど、あの時は、どこへ向かえばよいのかも分かりませんでした。ただ不思議な景色だと思って眺めていたのです」


蓮瑛は、青い砂漠を見渡した。


「今は、とても美しく見えます」


同じ景色でありながら、何が違うのか。


少なくとも今の蓮瑛には、水も食事もあり、夜を過ごす場所もある。あの夜のように、一人で行き先を探す必要もない。それが理由であればよいと、シンシャは思った。


「まるで、海のようです」

「海?」

「私が育った瑞安は、海に近い町でした。高い場所から眺めると、青い水がどこまでも続いているように見えるのです」

「そうなのか。残念ながら、私は海を見たことがなくてな」


蓮瑛には、海を見たことのない人生が、すぐには想像できなかった。


「一度もですか?」

「ああ。砂漠なら、生まれたときから見飽きるほど眺めてきたが」


海を知らないシンシャに、どう伝えればよいだろう。蓮瑛は故郷の景色を思い浮かべた。


「近くで見る海は、これほど静かではありません。波が寄せては返し、絶えず形を変えます。けれど、こうして遠くまで見渡すと、よく似ています」


砂丘の表面を風が渡り、細かな砂が青い霞となって流れていく。


「それなら、いつか見てみたいものだ」

「では、いつか私がご案内いたします」


思いがけない返事だった。

蓮瑛も口にしてから気づいたらしく、すぐに言葉を重ねた。


「申し訳ございません。差し出がましいことを申しました」

「いや。貴女が案内してくれるのなら心強い」


蓮瑛がどれほど先のことまで考えて答えたのかは分からない。

それでも彼女の語る未来に自分がいたことを、シンシャは嬉しいと思った。


「美しい国ですね」


水は乏しく、砂嵐や飢えに苦しめられることもある。王であるシンシャには、この国の美しさよりも、抱えている問題の方がよく見えていた。だが、蓮瑛の目には美しく映ったらしい。


これを見せたいと思ったのは自分なのに、実際にそう言われると、見慣れた景色まで違って見えた。


「他にも、貴女に見せたい場所がある」

「他にも?」

「市場も、果樹園も、北の岩山も。身体が戻ったら、少しずつ案内しよう」

「よろしいのですか?」

「貴女にこの国を知ってほしいと言ったのは私だ」

「楽しみにしております」


その返事を聞きながら、シンシャは夕闇へ溶けていく砂漠を眺めた。



■■■



「楽しみにしております」


口にしてから、蓮瑛は自分の返事を少し意外に思った。

いつか海を案内すると口にしたことも、取り消したいとは思わなかった。この国で過ごすこれからの日々を、もう思い描き始めていた。


眼下の王都に、一つ、また一つと明かりが灯っていく。

その先に続く日々を、蓮瑛は初めて待ち遠しいと思った。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、下の★評価で応援いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。