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父は建国王、母は不死鳥。俺は鍛冶師になって世界を鍛え直す  作者: 月神世一


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EP 3

「鍛冶師の限界と、狂気の萌芽」

――ズガンッ!!

至近距離から放たれた魔導ライフルの銃声が、国境の橋に轟いた。

俺の心臓を正確に捉えたはずの魔力弾。しかし、それが俺の肉体を貫くことはなかった。

「ヒエン君ッ!!」

横合いから飛び込んできた銀色の閃光――ビアラが、俺と銃口の間に滑り込んでいた。

彼女は『真・雷光トンファー』の側面で魔力弾を正確に弾き飛ばすと同時に、もう片方のトンファーの柄で、操られたルナミス兵の鳩尾みぞおちを優しく、だが確実に突いた。

「がはっ……」

ルナミス兵が白目を剥いて崩れ落ちる。殺さずに気絶させる、完璧な峰打ちだ。

「ヒエン君、大丈夫!? ぼーっとして、どうしたの!」

「……わりぃ、助かった」

俺は弾かれた自分の右手を見つめていた。

不死鳥の炎が消え、空間の金床が強制解除された右手には、火傷のような痣が赤々と浮かび上がっている。

『アハハハハハハッ!! どうしたどうしたァ! 変な炎を出して、俺の糸を燃やそうとでもしたのか!?』

上空の死蝿型に乗った魔人ギアンが、腹を抱えて爆笑している。

『馬鹿め! お前が何者かは知らんが、その糸はただのマナでも物理繊維でもない! 絶望と恐怖で染め上げた、対象の【魂】そのものに打ち込んだ概念のくさびだ! 物理的な炎や鉄を打つ技術で、魂が叩けるわけないだろうが!』

「魂の……概念……!」

俺はギリッと奥歯を噛み締めた。

親父の遺した『物理法則・現代科学』の知識と、母さんの『万物を熔かす炎』。

その二つを組み合わせた俺の【神鍛冶】は、これまでどんな物質でも、魔力でも、最適化して打ち直すことができた。

だが、『魂』は違う。

それは質量を持たず、化学方程式でも表せない、完全なブラックボックス。

構造レシピが理解できないものは、いかなる名工であっても打ち直すことはできないのだ。

「ヒエンさん! オークの群れが来ますぅ!」

リリスがスマホのライトを振り回して目くらましをしているが、操られたオーク兵たちが次々と防衛線を突破してこちらへ迫ってくる。

「チィッ、今は退くしかない。ロード! 時間を稼いでくれ!」

「しゃーないなァ! 『十秒・範囲停止』や!」

ロードが指を鳴らした瞬間、俺たちの周囲半径十メートルの時間がピタリと静止した。

空中で静止する血飛沫、ピタリと止まったオークの振り下ろす斧。

ただし、この神話級の時間停止魔法も、俺たちの周囲という極狭い範囲で、わずか十秒しか持たない。

「十秒でこの場を離脱する! ロード、全員を乗せろ!」

「へいへい! ほな特急便で飛ばすで!」

俺は静止している空間の中で、ルナミス兵の首に繋がっていた『ギアンの魔糸』の切れ端(ビアラの雷撃の余波で千切れたもの)を、親父の知識で作った絶縁体のガラスケースに強引に封じ込めた。

「よし、撤退だ!」

ロードの背の魔導ソファに飛び乗る。

十秒が経過し、時間が動き出した瞬間、ロードはマッハの速度で国境の橋を逆走し、アバロン魔皇国側の国境都市へと強行突破を図った。

『アハハハ! 逃げるか! まぁいい、前座の喜劇はここまでだ! 次はもっとデカい舞台を用意してやるから、特等席で震えて待ってろォ!』

後方から響くギアンの嘲笑を背に受けながら、俺たちは国境の混乱から間一髪で抜け出すことに成功した。

◆ ◆ ◆

アバロン魔皇国、国境都市の安宿。

ルーベンスの通行証のおかげで、俺たちは検問を顔パスで通過し、目立たない宿屋の一室を借り切ることができた。

「はぁ……怖かったぁ……。神様なのに、死ぬかと思いましたよぉ……」

リリスがベッドにへたり込み、涙目でスマホを抱きしめている。

「ヒエン君、手、大丈夫?」

ビアラが救急箱を持って近づき、俺の右手の手当てをしてくれた。

不死鳥の炎が『魂の呪い』に反発したことによる魔力的な火傷だ。リリスの神聖魔法を少し当ててもらい、痛みは引いていた。

「ありがとう、ビアラ。俺の油断だ」

「ううん。ヒエン君が無事ならそれでいいよ。……でも、あのピエロ野郎、本当にムカつく。私の美味しいご飯の時間を邪魔しただけじゃなくて、ヒエン君に怪我までさせるなんて……ッ!」

ウサギの耳を逆立て、本気で怒りを見せるビアラ。

その横で、ロードが重い口を開いた。

「……にいちゃん。ショックやったか?」

「え?」

「にいちゃんのその『鍛冶』の力、今まで失敗したことなかったんやろ。でも、ギアンの糸は叩けへんかった。無敵やと思ってた力が通じへんのは、怖いやろ」

ロードは、数千年の時を生きた竜としての、どこか労るような視線を俺に向けていた。

俺が「挫折」して、心が折れてしまったのではないかと心配しているのだ。

だが。

俺は自分の右手を見つめ、そしてガラスケースに封じ込めた『ギアンの魔糸の切れ端』をテーブルの上に置いた。

「……ショック? 怖い?」

ふっ、と。

俺の口から、自然と笑みがこぼれた。

「――冗談だろ。最高にワクワクしてるよ」

「……へ?」

ロードが間の抜けた声を出す。

俺はガラスケースの中の、不可視の呪いを帯びた糸を、まるで極上の宝石でも見るかのように熱を帯びた瞳で見つめていた。

「今まで、俺が叩いて直せないモノはなかった。親父の残した物理法則と、母さんの炎があれば、なんだって『わかってしまった』からな。退屈だったんだ」

俺は立ち上がり、宿屋の地下にあるという貸し倉庫(物置)に向かって歩き出した。

「でも、こいつは違う。化学でも物理でも証明できない、魂というブラックボックス。……未知の構造レシピだ。鍛冶師として、これほど叩き甲斐のある素材ジャンクはない」

「ヒ、ヒエン君……? なんか、目が怖いよ……?」

ビアラが一歩引くほど、俺の顔には『職人としての狂気』が張り付いていたのだろう。

「ギアンは『魂が叩けるわけない』って言ったな。上等だ。構造がわからないなら、わかるまで叩き解いてやる。魂だろうが呪いだろうが、俺の金床の上で完全に分解して、無害なアクセサリーにでも打ち直してやるよ」

俺は地下の物置の扉を開け、振り返った。

「ビアラ、ロード、リリス。少し時間が欲しい。俺はこれから、この『魂の糸』の解析と、それを叩き直すための新しいハンマーの製作に入る」

「……うん! わかった。外の警戒と、ご飯の調達は私に任せて!」

ビアラが力強く頷く。

「ワイも、適当に結界でも張っとくわ。……まったく、にいちゃんも大概バケモンやなァ」

ロードが呆れたようにため息をついた。

俺は物置の扉を閉め、外界の音を完全に遮断した。

薄暗い空間に、ガラスケースを置く。

俺は深く息を吸い込み、両手に【神鍛冶】の炎を静かに灯した。

「さぁ……徹夜の作業オーバーワークの始まりだ。俺のエゴを舐めるなよ、ピエロ野郎」

ルナミス帝国と魔皇国の命運を懸けた、俺と魔人ギアンの『概念』を巡る知恵比べ。

魂すら叩き直す、狂気の鍛冶師の孤独な戦いが幕を開けた。

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