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父は建国王、母は不死鳥。俺は鍛冶師になって世界を鍛え直す  作者: 月神世一


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EP 4

「ヒエンの工房と、フリーター兎の差し入れ」

カァァァンッ……!

鈍く、重い音が地下の物置に虚しく響く。

俺の右手に灯る【神鍛冶】の紅蓮の炎は、ガラスケースから取り出した『ギアンの魔糸』に触れるたび、バチバチと激しい火花を散らして弾かれていた。

「……クソッ。また弾かれたか。構成物質を『ゼロ』と仮定して、純粋な魔力体としてアプローチしてもダメ。親父の知識にあった『コンピュータ・ウイルスのソースコード』に見立てて概念の書き換えを試みても、途中でエラーを吐き出してシャットアウトされる……」

徹夜の作業開始から、すでに丸一日が経過していた。

薄暗い地下室には、俺が試行錯誤の末に生み出した様々な『失敗作』の魔道具の残骸が転がっている。

ギアンの魔糸は、物理法則ルールを完全に無視していた。

それは鉄でもマナでもない。『絶望』や『恐怖』といった負の感情を、他者の魂に直接縛り付けるための呪い。

(ただの炎じゃ熔かせない。ハンマーじゃ叩けない。対象の『構造レシピ』が完全にブラックボックス化されてるんだ。……どうすれば、この黒い箱の蓋を開けられる?)

右手には火傷の痣が広がり、体力的にも魔力的にも限界が近づいている。

だが、俺の心は不思議なほど澄み切っていた。

親の七光りで何でもできてしまった俺が、初めてぶち当たった『越えられない壁』。それを自分の手で打ち壊す快感に、完全に魅了トランスされていたのだ。

「フフッ……面白ぇ。お前がその気なら、こっちも脳みそが焼き切れるまで――」

ガチャッ。

「ヒエン君、生きてるー?」

俺が不気味な笑い声を上げながら炎を練り直そうとした瞬間、物置のドアが開き、ひょっこりと銀色のウサギ耳が顔を出した。

ビアラだ。

「……ビアラ。外の警戒はいいのか?」

「大丈夫! ロードが結界張ってくれてるし、リリスちゃんは相変わらずガチャで爆死して泣いてるから平和なもんよ。それよりヒエン君、丸一日何も食べてないでしょ? 差し入れ持ってきたよ!」

ビアラはそう言うと、真っ黒な薄型の化粧箱のようなものをテーブルの上にドンッと置いた。

そこから漂ってくるのは、とんでもなく暴力的な『ニンニクと油』の匂い。

「なんだそれ。タロパウチか?」

「ううん! 宿屋のオヤジさんに『アバロン魔皇国で一番カロリーが高くて美味いもの』って聞いたら、闇ルートで軍のレーションを横流ししてくれたの! アバロン魔皇国軍・戦闘糧食ORP型、通称『魔王の深夜便』だって!」

ビアラはウキウキした様子で黒い箱を開けた。

中に入っていたのは、精密な魔法陣が描かれた銀のプレートだ。

「これに魔力を一滴垂らすとね……えいっ!」

ポチャン、とビアラが魔力を落とした瞬間。

ボンッ!! と白い煙が上がり、プレートの上に**『暗黒竜の焦がしニンニク炒飯』と『獄炎焼き餃子』**、さらには漆黒のブラックコーヒーと苺大福が、出来立てアツアツの状態で召喚されたのだ。

「……空間転送デリバリー・マジックか。ただの飯のために、魔族はどんだけ無駄な魔力と技術を使ってるんだ」

「しかもね! なんかよくわかんないけど、人間の男の人のキラキラしたカードがおまけでついてきたの! ほら!」

ビアラがドヤ顔で見せてきたのは、『朝倉月人あさくらつきと ランダム・ブロマイド・SSR水着バージョン』だった。

「……母さん(永遠の17歳)と、魔王ラスティアおばさんの狂気の産物だな、これ。見なかったことにしよう」

俺はそっとブロマイドを裏返した。

しかし、炒飯から漂う匂いは本物だった。俺の胃袋が「限界だ」と猛烈に自己主張を始める。

「ほら、食べて食べて! 職人さんも休息は必要でしょ?」

「……そうだな。ありがたくいただくよ」

レンゲで漆黒の炒飯を掬い、口に運ぶ。

「ッ……!? なんだこれ、美味ぇ!」

見た目は消し炭のようだが、強烈なニンニクの旨味と魔獣肉の脂が脳天を直撃し、極度の疲労で擦り切れていた魔力回路に、爆発的なエネルギーが流れ込んでくる。獄炎焼き餃子を噛めば、口から少し火を吹きそうになるが、全身の細胞がバチバチと活性化していくのがわかった。

「すごいな、このレーション。疲労回復ポーションなんて目じゃない」

「でしょ? はい、コーヒーも!」

ビアラが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、俺は大きく息を吐いた。

「……ごちそうさま。少し頭がスッキリしたよ。ありがとう、ビアラ」

「どういたしまして! ……で? 進捗はどうなの、鍛冶師さん」

ビアラは空いた箱を片付けながら、テーブルに置かれた『ギアンの魔糸』を見つめた。

俺は苦笑して首を振る。

「正直、手詰まりだ。鉄を熔かすのは融点がわかるからだ。機械を直せるのは構造がわかるからだ。でも、魂の呪いは『外から壊そうとする力』を完全に拒絶する。硬いとか柔らかいとか、そういう次元の話じゃない」

「ふーん……」

ビアラは腕を組み、長いウサギの耳をパタパタと揺らした。

そして、彼女は自分の腰に提げた『真・雷光トンファー』をコンコンと指で叩いた。

「難しいことはわかんないけどさ。ヒエン君、私の『月影流 鐘打ち』って蹴り技、覚えてる?」

「あぁ。ゴブリンの群れをホームランしてたやつだろ。分厚い盾の上から、内部だけを破壊する恐ろしい打撃だ」

「そう、それ。あのね、硬い盾をただ力任せに殴っても、こっちの足が折れるだけなの。だから私は、打撃の瞬間に自分の闘気の『波長リズム』を、相手の盾の『固有振動』にピタッと合わせるんだ」

ビアラはトンファーを構え、スッと美しい型を見せた。

「外から壊そうとするから弾かれるの。なら、相手と同じ波長に同調して、内側に入り込んじゃえばいい。同調シンクロした上で、こちらの闘気を叩き込めば……どんなに硬い殻でも、内側からボロクソに壊せるんだよ」

「固有振動……波長に、同調シンクロする……」

俺の脳内で、バラバラだったピースが雷に打たれたように繋がり始めた。

「……そうか! なんで気づかなかったんだ! 魂は『物質』じゃなく『エネルギー』だ! 外から炎の熱(物理)で熔かそうとするから拒絶される。叩き直す前に、まずは俺の【神鍛冶】の波長を、呪いの糸の周波数に合わせる必要があるんだ!」

俺はガタッと立ち上がり、ビアラの両肩をガシッと掴んだ。

「ビアラ! お前、天才か!!」

「えっ!? あ、うん、私は戦闘のセンスなら誰にも負けないけど……わっ、ヒエン君、顔近い顔近い!」

銀色の瞳を丸くして照れるビアラをよそに、俺の職人としての思考はすでにフル回転を始めていた。

「波長を合わせるための『触媒』がいる。魂の震え(周波数)を正確に読み取り、俺の炎の性質を『物理』から『魂への干渉』へと変換するための、特殊な金槌ハンマーが……!」

俺は部屋の隅に積んであったジャンク品の山から、ルナミス帝国兵が落としていった魔導ライフルの『照準器スコープ』のレンズと、死蜘蛛型の『コアの破片』を拾い上げた。

「ヒエン君……? なにやらヤバいスイッチ入っちゃった感じ?」

「あぁ。最高に冴えてる。アバロン軍の飯(ORP)のおかげで、魔力も体力も限界突破してるしな」

俺は両手に、かつてないほど静かで、しかし超高密度の【神鍛冶】の炎を灯した。

「ビアラ。もうすぐ俺の『最高の道具』が完成する。ギアンのピエロ野郎がどんな舞台を用意してるか知らないが……」

俺は不敵に笑い、空中の金床に向かって素材を放り投げた。

「あのクソふざけた喜劇コメディを、俺の鍛冶で根本から『叩き直す』準備ができたぜ」

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