第9話 雨夜の襲撃と焼け残った頁
その夜、嵐が来た。
修道院の石窓を打つ雨音に混じって、外で短い叫び声が上がる。私は跳ね起き、客間の扉を開けた。
「火です! 旧庫が!」
修道女の声に駆け出す。鐘楼下の旧庫から煙が噴き、誰かが中へ油壺を投げ込んでいた。
ルーファスと近衛兵がすでに応戦している。黒装束の襲撃者は三人。修道院を狙うには統率がよすぎる。
「マルティナ、下がれ!」
怒鳴られたが、私は引かなかった。燃える戸の隙間から、床に散った羊皮紙の欠片が見える。あれを失えば、ここまで来た意味がない。
濡れ布を顔に巻き、私は旧庫へ飛び込んだ。
熱気で喉が焼ける。箱は半分燃え、帳票は黒く縁取られていた。私は手近の鉄皿で火を払い、まだ形の残る一枚を掴み取る。
そこへ黒装束の男が踏み込んできた。短剣の光が見えた瞬間、ルーファスが後ろからその腕を斬り払った。
「何をしている!」
「これだけは、持ち出したかったの!」
私は咳き込みながら紙を胸に抱えた。男は捕縛され、残りの二人も近衛に制圧される。
雨の中へ引きずり出されたあと、私は焼け焦げた頁を明かりに透かした。完全ではない。けれど断片の間に、はっきり読める文字がある。
第一子 女子。
そして、その下に別のインクで上書きされた痕。王子。
「やっぱり……書き換えられてる」
ルーファスが濡れた髪を払い、私の肩を確かめるように触れた。
「怪我は」
「ありません」
本当は腕が震えていた。でもそれは恐怖より、確信のせいだった。
王太子の血統証は間違いではない。意図的な偽造だ。




