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第8話 修道院の会計係は王女に似ている

翌朝、私は会計係エルザに会った。


 二十七歳。栗色の髪をきっちり結い、寄進帳簿を抱えた細身の女性だ。派手さはないが、横顔にどこか見覚えがあった。王宮の肖像画で何度も見た、亡き王妃マルグリットの面差しに似ている。


「何か?」


 不思議そうに首を傾げる仕草まで、肖像画の王妃に似ていて、私は思わず息を止めた。


「失礼。帳簿のことで少し、お聞きしたいの」


 エルザは快く応じてくれた。彼女は修道院の門前に捨てられていた孤児として育ち、十五歳から会計を任されているという。身元を示すものは、赤子の頃から身につけていた古い銀鎖だけ。


 見せてもらうと、銀鎖の留め金に月桂樹の細工があった。箱に入っていた腕輪と同じ意匠だ。


「これは、どこで?」


「院長様が、私の荷物箱にずっと入っていたと」


 私は寄進帳簿を開いた。匿名の送金は、彼女が七歳になるまで毎年続いている。差出人名は空欄だが、王宮会計にしか使われない青墨の番号が残っていた。


 ルーファスが低い声で言う。


「保護費だな」


「王家からの」


 その瞬間、廊下の向こうで何かが倒れる音がした。近衛兵が駆ける。窓の外には、修道院の塀を越えて逃げる影が一つ。


「狙われたのは文書だけじゃない」


 私が言うと、ルーファスはすでに剣に手をかけていた。


「エルザ嬢、今日から君にも護衛をつける」


「え……私に?」


「君が何者であれ、狙われる理由がある」


 エルザの瞳が揺れる。唐突に人生が変わる顔を、私は昨日したばかりだった。


 だからこそ、わかる。


 ここから先は、彼女も巻き込まれるのではない。最初から、彼女こそが中心なのだ。



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