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第4話 修道院へ消えた原本

北へ向かう馬車の中で、私は貸出控えと押収文書を照らし合わせていた。


 六年前、王家洗礼台帳の原本は修復名目で北塔修道院へ送られている。だが返還記録がない。代わりに王太子宮内局が年に二度だけ「閲覧済み」の印を押していた。


「原本を王宮に戻さず、必要な時だけ見に行っていたのね」


「ああ」


 ルーファスは向かいの席で短く答えた。鎧ではなく黒い旅装だが、座っているだけで空気が締まる。


「王太子側は系譜院より先に動いていた。君が継承証に目を留めた時点で、排除が決まったのだろう」


「なら、北塔にも手が回っている」


「だから急ぐ」


 私は証書の写しを取り出し、青い封蝋を指先でなぞった。現行の王家印は蜜蝋に銀粉を混ぜる。だがこの封蝋は青が濃すぎる。顔料の配合が古いのだ。


「これ、先王妃の葬儀で最後に使われた儀礼印の蝋です」


「見分けられるのか」


「系譜監査官は、紙より蝋を見ます。書き換えられても、癖は残るから」


 ルーファスがわずかに眉を上げた。


「やはり君で正解だった」


 その率直さに、少しだけ胸が熱くなる。エドガーは褒める時でさえ、私を便利な道具として扱った。けれどルーファスの言葉は、仕事そのものへの敬意に聞こえた。


 馬車は夕刻、霧の深い峡谷道へ差しかかった。前方を走る護衛の馬が急にいななく。


「伏せろ!」


 ルーファスに腕を引かれた瞬間、矢が窓を突き破った。


 乾いた音とともに、私のいた席の背もたれに黒い羽根が震える。


「王太子の使いでは?」


「少なくとも、歓迎ではないな」


 ルーファスが剣を抜き、馬車の扉を蹴り開けた。


 原本は、よほど見られて困るものらしい。



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