第5話 王太子の血統証は誰が作ったか
襲撃は短かった。
護衛の近衛たちが道を押さえ、ルーファスが先頭の男を叩き落とすまで、ほんの数分。捕らえた襲撃者は平民の運び屋に偽装していたが、靴底の革には王都兵站局の刻印があった。
「使い捨てね」
私が呟くと、ルーファスは縄を締めながら頷いた。
「口を割る前に切られる種類の駒だ」
馬車の修理を待つあいだ、私は矢羽の欠片と一緒に落ちていた封筒を拾った。宛名は北塔修道院長。中の文面は簡潔で、「王太子血統関連の保管物は本日中に処分せよ」とだけある。署名はないが、封に使われた蝋が継承証と同じ古色の青だった。
「やっぱり同じ印だわ」
「同じ工房か」
「いいえ、もっと近い。王宮の古印を触れる立場の人間です」
私は蝋の割れ目を示した。儀礼印には持ち手の金属に亀裂があり、押した跡の右上に細い線が入る。継承証も、この処分命令も同じ線を持っていた。
「王宮の宝物庫、もしくは宮務官の保管庫」
「エドガーが該当するな」
その名を聞いても、もう胸は痛まなかった。代わりに冷えた怒りだけが残る。
「婚約者を切る前に、私の仕事道具まで利用したのね」
「後悔しているか」
不意に聞かれて、私は少し考えた。
「相手を見誤ったことは後悔しています。でも、ここで黙る方がもっと後悔する」
ルーファスは短く息を吐いた。
「それでいい」
日が沈む前に馬車は再出発した。北塔修道院まで、あと半日。
処分命令が届くより先に着ければいい。そう思っていたのに、修道院の尖塔が見えた時、空に細い煙が上がっていた。




