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第3話 冷徹近衛総長の契約花嫁

ルーファスに連れられたのは、近衛総長公邸の執務室だった。壁には王都近辺の地図、机の上には押収されたらしい文書箱が積まれている。


「君の継承証偽造疑惑は、王太子側が先に準備していたものだ」


 彼は無駄なく言った。


「私は半年ほど前から、王太子宮が古い王家文書を密かに買い集めていると掴んでいた。だが軍権だけでは系譜には踏み込めない。専門家が必要だ」


「だから私を?」


「それだけではない」


 彼は一通の公文書を差し出した。そこには、私を一時拘束のうえ尋問する予定だった旨が記されている。執行予定は、今夜。


「……早すぎる」


「消したい人間は早く消す」


 私は唇を噛んだ。エドガーならやる。証拠を抱えた元婚約者など、生かしておく利点がない。


「私が君を公に庇うには理由がいる。最も簡単なのは、婚姻の約定だ」


「結婚?」


「正式な成婚ではない。契約花嫁になってもらう。期間は一年。身分保護と調査権を与える代わりに、私の婚約者として公の場に出てほしい」


 話が飛びすぎていて、かえって笑いそうになった。


「ずいぶん合理的ですね」


「合理的でなければ提案しない」


 契約書は既に用意されていた。住居の提供、調査への便宜、婚姻の履行義務なし、期間満了後は自由解消。私の名誉が回復した後の進路も私が選べる。


「条件を一つ」


 私は契約書から顔を上げた。


「王宮の嘘を暴けた場合、その報告書には私の名前を筆頭監査官として記してください」


「当然だ」


 ルーファスは即答した。打算があるのはわかる。それでもこの男は、少なくとも私の能力を値踏みしたうえで必要としている。


「わかりました。引き受けます」


 私が署名すると、ルーファスはほんのわずかに目元を緩めた。


「まずは北塔修道院へ向かう。原本が残っているなら、向こうも同じことを考える」


「消すために?」


「その可能性が高い」


 契約花嫁になった実感はまだなかった。ただ、これだけははっきりしている。


 私はもう、泣き寝入りする側ではない。



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