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第39話 契約ではない婚姻届
事件の後処理がひと段落した夕方、私は監査局の窓辺で一息ついていた。
机の端には、あの婚姻届がある。白いまま、ずっと待っていた紙だ。
「まだ保留ですか」
ルーファスが静かに入ってくる。
「いいえ」
私は紙を手に取った。
「今は、順番どおりです」
彼は何も急かさなかった。ただ、いつものように隣へ立つ。
「契約ではなく、私の意思で出します」
「受け取る」
あまりに短い返事なのに、胸が熱くなった。
私は名前を書く。マルティナ・レーヴェ。続いて彼が書く。ルーファス・エーレンベルク。二つの署名は、もう保護契約の並びではない。同じ未来へ責任を持つ並びだ。
ヘレーネ殿下が途中で顔を出し、満面の笑みを浮かべた。
「やっと出すのね」
「監査が終わったので」
「あなたたちらしいわ」
その言い方が可笑しくて、私は少し笑った。政略の婚姻を止めたあとに、自分の婚姻届を書く。順番としては、たぶんこれ以上なく正しい。




