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第40話 夫婦署名の新しい台帳
それから一週間後。
監査局へ、新しい王家婚姻補助台帳が運び込まれた。古い改竄跡の多い帳面を補うため、婚姻資格審査の別冊として新設されたものだ。責任者名は、局長マルティナ・エーレンベルク。
まだ少しだけ、その名前に照れる。
「慣れませんか」
ルーファスが横から覗き込む。
「少しずつ、です」
台帳の最初の頁には、審査基準が並んでいた。本人意思の確認、母系父系の二重照合、修道誓約者の別冊確認、被保護者の名義流用禁止。二度と同じ手口を通させないための線だ。
午後、ヘレーネ殿下が王家会計改革室の看板案を持ってきた。
「婚姻より先に、こっちを開けるわ」
「ええ。そのほうが殿下らしいです」
彼女は笑い、私たちは新しい台帳へ最初の承認印を押した。
夕方、執務室に二人きりになる。私は署名欄へ最後の確認を入れ、ルーファスと並んで名を書く。
夫婦署名。
たった四文字なのに、ずいぶん静かで、ずいぶん確かだった。
「もう誰にも、勝手に書き換えさせません」
私が言うと、ルーファスが肩を抱く。
「ああ。帳面も、お前の幸せも」
窓の外では春の終わりの風が白旗を揺らしている。偽の血統証から始まった私の人生は、今ようやく、私自身の名前で穏やかに続いていく。
新しい台帳の一頁目は、私たちの署名で始まった。




