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第36話 止められた降嫁式
正式審査の前に、財務卿側は小礼拝堂での“内定式”を強行しようとしていた。
婚姻ではない、ただの祝祷だと言い張る。けれど一度聖職者の前で並べば、王宮はそれを既成事実にしやすい。
私たちが礼拝堂へ着いたとき、白布の前にカスパル公子とヘレーネ殿下の席が用意されていた。殿下は当然座っていない。
「止めます」
私が声を上げると、ローデリヒ卿が不快そうに眉を寄せた。
「監査局に祝祷を差し止める権限はない」
「婚姻前提の祝祷ならあります」
私は持参金箱から出た封書と、昨夜の改竄未遂記録を前へ出した。
「本日提出予定の母系婚姻証明には重大な瑕疵があります。さらに、昨夜この王宮で婚姻台帳への改竄が行われました」
聖職者が顔色を変える。
「それが事実なら、祝祷はできません」
ローデリヒ卿が何か言い募ろうとした瞬間、ルーファスが一歩前へ出た。
「聖前で偽記録を通す気なら、近衛が預かる」
礼拝堂は一気に静まり返った。カスパル公子は青ざめていたが、完全に驚いた顔もしていた。彼はここまで汚れていると知らなかったのかもしれない。
いずれにせよ、式は止まった。
政略は、既成事実の顔をして人を押し流そうとする。だからその前で止めることに意味がある。書類も人も、間に合ううちに。




