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第30話 雨夜の閲覧許可
持参金箱から出てきた封筒は、長年閉じられたままだった。
中には短い手紙と、古い閲覧許可証の控えが入っていた。差出人はかつての財務官。文面にはこうある。“エリス殿、婚姻台帳の名義差替えはお受けできません”。
「拒否されている」
私は紙を握りしめた。
「つまり当時から、不正だと分かっていた人がいたんです」
許可証の宛先は、東港の巡礼船事務局。雨が降り始めたのはちょうどそのときだった。
夜更けの王都は冷たく濡れていたが、待つ理由はない。私はルーファスへ向き直る。
「東港記録を今夜見たい」
「許可なら取る」
彼は迷わなかった。
近衛名義の夜間閲覧許可が下りたのは、一時間後だった。私は外套の裾を押さえながら、雨の石畳を急ぐ。ヘレーネ殿下まで付いてこようとしたが、さすがにそれは止めた。
「王女は休んでください」
「私は会計係だった頃、もっとひどい雨でも帳簿を抱えて走ったわ」
「今は第一王女です」
「それでも走れるけど」
言い返したそうな顔を、ルーファスがひとことで黙らせる。
「殿下。これは命令です」
港へ向かう馬車の中で、私は濡れた窓を見つめた。過去に拒否された改竄が、今また王女の未来を食おうとしている。ならば、今度こそ最後まで追うだけだ。




