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第29話 返されなかった持参金箱

翌朝、王家財務庫へ持参金箱を取りに行くと、保管棚が空だった。


「返却記録がありません」


 庫番が青ざめる。受領印はあるのに、戻り印がない。箱ごと行方不明だ。


 私はその場で受領経路を洗った。搬入したのは財務卿付き書記、立会人は西方公爵家の家令、鍵の副本を持っていたのは財務庫の若い補佐官ひとり。


「まずその補佐官に会わせてください」


 補佐官フリッツは震えていた。責めるより先に、私は温かい茶を渡す。


「箱はどこへ」


「昨夜、点検のため南書庫へ移すと命じられました。戻す手筈だったんです」


「誰に」


「ローデリヒ卿付きの書記です」


 南書庫へ向かうと、箱はあった。だが封印紐が新しく、底の金具に小さな擦り傷がついている。誰かが急いで開けた跡だ。


 中身の葡萄冠はそのまま残っていた。けれど敷布の高さが微妙に違う。


「二重底です」


 ヘレーネ殿下が息を呑む。私は布を持ち上げ、薄い板を外した。そこに入っていたのは古びた封筒ひとつ。宛名は、修道名エリス。


 誰かはこの手紙を抜きたかったのだ。だから箱は返されなかった。


 政略結婚の箱には、宝石より重い紙が隠れていた。


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