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第26話 修道誓約書に消えた姉

赤い糸の先を辿って、私は北塔修道院の記録室へ向かった。


 石壁の奥から運ばれてきた古い誓約簿には、薄い灰色の埃が積もっている。頁をめくると、二十四年前の欄に探していた名があった。


 エリーザ・ヴァイスフェルト。


 王妹アーデルハイトの直系外孫。最終誓約、修道名エリス。婚姻権および継承権を永久放棄すると明記されている。


「いたわ」


 ヘレーネ殿下が息を飲む。


「婚姻台帳で消された名前は、この人です」


 ところが誓約簿の余白に、さらに薄い書き込みがあった。“妹ローザ、家へ戻さず”。そこだけが無理に削られかけている。


「妹?」


 私は修道院長アグネスへ視線を向けた。老いた院長は少しだけ逡巡し、それでも答えた。


「公爵家には、エリーザ嬢の世話係の娘が同い年でおりました。ローザという子です。親を亡くし、屋敷で育てられていたと聞いています」


 王家血筋ではない子が、なぜ誓約書の余白に書かれるのか。


「入れ替えの準備ですね」


 私が言うと、アグネス院長は目を伏せた。


「当時の記録係も、同じことを恐れていたのでしょう」


 修道誓約書は、花嫁にならなかった姉の存在をはっきり証明した。ならば西方公爵家が王家へ繋がると言い張る“母系”は、別の女の名にすり替えられている可能性が高い。


 またしても、書類は女の人生ごと書き換えられようとしていた。


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