26/40
第26話 修道誓約書に消えた姉
赤い糸の先を辿って、私は北塔修道院の記録室へ向かった。
石壁の奥から運ばれてきた古い誓約簿には、薄い灰色の埃が積もっている。頁をめくると、二十四年前の欄に探していた名があった。
エリーザ・ヴァイスフェルト。
王妹アーデルハイトの直系外孫。最終誓約、修道名エリス。婚姻権および継承権を永久放棄すると明記されている。
「いたわ」
ヘレーネ殿下が息を飲む。
「婚姻台帳で消された名前は、この人です」
ところが誓約簿の余白に、さらに薄い書き込みがあった。“妹ローザ、家へ戻さず”。そこだけが無理に削られかけている。
「妹?」
私は修道院長アグネスへ視線を向けた。老いた院長は少しだけ逡巡し、それでも答えた。
「公爵家には、エリーザ嬢の世話係の娘が同い年でおりました。ローザという子です。親を亡くし、屋敷で育てられていたと聞いています」
王家血筋ではない子が、なぜ誓約書の余白に書かれるのか。
「入れ替えの準備ですね」
私が言うと、アグネス院長は目を伏せた。
「当時の記録係も、同じことを恐れていたのでしょう」
修道誓約書は、花嫁にならなかった姉の存在をはっきり証明した。ならば西方公爵家が王家へ繋がると言い張る“母系”は、別の女の名にすり替えられている可能性が高い。
またしても、書類は女の人生ごと書き換えられようとしていた。




