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第25話 西方公爵家の洗礼証

数日後、ヴァイスフェルト公爵家の公子カスパルが王宮へやって来た。


 二十代半ば、礼儀正しく、よく整った青年だった。提出された補足資料の中には、母系祖先の洗礼証写しもある。表面だけ見れば申し分ない。けれど私は、その紙を手にした瞬間に違和感を覚えた。


「この教区印、当時のものではありません」


 私が指摘すると、カスパル公子は穏やかな顔のまま首を傾げる。


「写しだからでは?」


「いいえ。印章自体が十年前に更新された形です」


 横でヘレーネ殿下が低く呟いた。


「つまり、古い証明の顔をした新しい紙ね」


 公子は慌てなかった。そこがかえって不自然だった。


「母が家伝の箱から出したものです。必要なら本物もお見せしましょう」


「ぜひ」


 私が答えると、公子の目だけが一瞬硬くなった。


 面会のあと、私は台帳へ赤線を引く。家伝の箱、本物は後日、更新後の印章。作りのいい嘘ほど、“あとで見せる”を好む。


 ルーファスが机へ手をついた。


「どう見る」


「公子自身が全部知っているかは分かりません。でも、家が出している書類は危ういです」


 ヘレーネ殿下は洗礼証写しを見つめ、顔をしかめた。


「見た目が綺麗すぎるのよね。生きてきた紙って、もう少し疲れているもの」


 その感想に、私は思わず頷いた。書類も人も、都合よく整いすぎているものは信用しづらい。


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