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第24話 花嫁教育を断る王女
翌朝、王妃教育係からヘレーネ殿下宛てに分厚い予定表が届いた。
歩き方、微笑み方、夫の三歩後ろを歩く訓練。最後の頁には、西方公爵家への輿入れ後の模擬挨拶まで書かれている。
「嫌です」
殿下は即答した。
「まだ相手の母系が本物かも分からないのに、どうして私が笑い方を習うの」
私は予定表を一枚ずつ捲る。どの頁にも、ヘレーネという人間より“王女という飾り”の作り方しか書かれていなかった。
「断りの文案を作ります」
「そんなの通る?」
「通させます」
ルーファスが隣で言った。
「教育係が難色を示すなら、近衛名義で日程を差し止める」
ヘレーネ殿下はふっと笑う。
「いいわね、この監査局。仕事の話をすると皆まともになる」
その日の午後、殿下は自らの意思で監査局の補助机へ座った。持参金目録の転記、王家婚姻台帳の照合、古い系図の整理。ペン先はまだ王女のものより会計係のものに近いが、それでいい。
「花嫁教育より、こっちのほうが性に合うわ」
「知っていました」
私がそう返すと、殿下は少しだけ胸を張った。
「なら、私の結婚話は私も監査する。自分の将来の帳面を、人任せにしたくないの」
その言葉は、とても頼もしかった。王女である前に、彼女は自分の人生の当事者だ。その当たり前を、もう誰にも奪わせたくない。




