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第22話 持参金目録の空白欄
降嫁申込書には、立派な持参金目録も添えられていた。
白金の葡萄冠、青玉の胸飾り、王妹由来とされる祈祷書、婚資として提供される西方領の年貢証券。豪華だ。けれど、豪華な書類ほど見落としてはいけない欄がある。
「ここです」
私はヘレーネ殿下へ目録を差し出した。母系来歴欄の三行目だけが、不自然に空白になっている。
「書き忘れ?」
「いいえ。上から書き足した跡があります。削って、埋める前に止めたんでしょう」
さらに宝飾品の箱番号を追うと、王家財庫の古い台帳と一致しない。葡萄冠は確かに存在するが、王妹の系統に下賜された記録が見当たらないのだ。
ヘレーネ殿下は椅子へ深く座り、ため息をついた。
「私、結婚の話より王家会計の整理をしたいのだけど」
「分かっています」
「でも皆、“王女らしい安定”には結婚が必要だと言うのよね」
私は目録を閉じた。
「安定は、空白欄をごまかした持参金では買えません」
殿下は一瞬だけ目を丸くし、それから口元を緩めた。
「それ、今度の会議でそのまま言っていい?」
「できれば私から言わせてください」
午後、財務庫から実物の持参金箱を借りる手配をした。開封記録、封印番号、搬入経路。全部洗う。婚姻とは感情の話でもあるけれど、王家の降嫁は数字と記録の上で先に壊れることが多い。
今回も、たぶんそうだ。




