第21話 第一王女への降嫁申込書
系譜監査局の朝は、封蝋の色で始まることが多い。
その日、私の机へ届いたのは王家専用の深紅の封書だった。差出人は宮務評議会。中には第一王女ヘレーネ殿下への降嫁申込書と、西方公爵家嫡男カスパル・ヴァイスフェルトの系譜書が入っていた。
「ずいぶん急ですね」
私が呟くと、窓辺に立っていたルーファスが振り返る。
「王女の身分回復からまだ三か月だ。急ぎすぎている」
申込書の文面は丁寧だった。けれど添えられた母系系譜欄に、妙な違和感があった。ヴァイスフェルト家は“アーデルハイト王妹の正統外孫筋”と記している。ところが、その表記に使われた肩書きが新制度のものだった。
「二十年前の婚姻で、新しい官称は使えない」
私は赤鉛筆で線を引く。見た目は整っている。けれど書類は、時代を間違えるとすぐに嘘をこぼす。
そこへ当のヘレーネ殿下が現れた。以前より王族の礼装が馴染んできたが、表情は相変わらず会計係の頃のままだ。
「私の結婚相手、もう決まったの?」
「申込書が届いただけです」
「却下はどこに書けばいいのかしら」
あまりに真顔で言うので、私は思わず笑いそうになった。
「まずは監査です。断るにも通すにも、相手の帳面を洗ってから」
ヘレーネ殿下は封書を覗き込み、小さく眉を寄せる。
「また血筋で値段をつける話なのね」
「そうですね。でも今度は、最初からこちらが帳面を持っています」
ルーファスが低い声で言った。
「必要なら、私が会議ごと止める」
「その前に証拠を揃えます」
私は申込書を閉じた。第一王女の未来を、誰かの都合のいい縁組表で決めさせるつもりはない。




