第20話 もう血統は隠せない
それから三か月後。
私は王宮に新設された系譜監査局の初代局長になっていた。洗礼台帳、婚姻記録、埋葬許可証、継承関連文書はすべて二重保管となり、王家印の貸出しには監査局と近衛の双方承認が必要になった。
「ずいぶん堅い制度ですね」
新任書記官が言うので、私は苦笑する。
「二十七年分の嘘を見たら、これでも足りないくらいよ」
窓の外では、王都の春風が白い旗を揺らしている。第一王女ヘレーネは王族教育を受けながらも会計改革に口を出し始め、議場の重鎮たちを早くも困らせていた。修道院育ちの王女は、思った以上に骨がある。
そして私は、仕事を終えると近衛総長公邸――今は私たちの家になった場所へ戻る。
夕食の席で、ルーファスが珍しく早く帰ってきていた。
「今日は火事も謀反もなかったか」
「監査局に喧嘩を売る人は減りました」
「優秀だな、局長殿」
「近衛総長の護衛が優秀だからです」
向かい合って笑い合う。派手な言葉はなくても、これが私の選んだ穏やかさだ。
食後、書斎に置かれた新しい洗礼台帳を開いた。表紙裏には、監査責任者として私の名がある。
もう、誰にも勝手に書き換えさせない。
偽物の血統証に婚約も仕事も奪われたあの日から、私は遠くまで来た。けれど結局、私を救ったのは自分の仕事を信じる気持ちだった。
「マルティナ」
呼ばれて振り返ると、ルーファスが私の肩を抱く。
「まだ働くのか」
「少しだけ」
「少しだけなら、付き合う」
その体温に寄りかかりながら、私は台帳を閉じた。
もう血統は隠せない。もう私も、自分の幸せを隠さない。




