表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/40

第20話 もう血統は隠せない

それから三か月後。


 私は王宮に新設された系譜監査局の初代局長になっていた。洗礼台帳、婚姻記録、埋葬許可証、継承関連文書はすべて二重保管となり、王家印の貸出しには監査局と近衛の双方承認が必要になった。


「ずいぶん堅い制度ですね」


 新任書記官が言うので、私は苦笑する。


「二十七年分の嘘を見たら、これでも足りないくらいよ」


 窓の外では、王都の春風が白い旗を揺らしている。第一王女ヘレーネは王族教育を受けながらも会計改革に口を出し始め、議場の重鎮たちを早くも困らせていた。修道院育ちの王女は、思った以上に骨がある。


 そして私は、仕事を終えると近衛総長公邸――今は私たちの家になった場所へ戻る。


 夕食の席で、ルーファスが珍しく早く帰ってきていた。


「今日は火事も謀反もなかったか」


「監査局に喧嘩を売る人は減りました」


「優秀だな、局長殿」


「近衛総長の護衛が優秀だからです」


 向かい合って笑い合う。派手な言葉はなくても、これが私の選んだ穏やかさだ。


 食後、書斎に置かれた新しい洗礼台帳を開いた。表紙裏には、監査責任者として私の名がある。


 もう、誰にも勝手に書き換えさせない。


 偽物の血統証に婚約も仕事も奪われたあの日から、私は遠くまで来た。けれど結局、私を救ったのは自分の仕事を信じる気持ちだった。


「マルティナ」


 呼ばれて振り返ると、ルーファスが私の肩を抱く。


「まだ働くのか」


「少しだけ」


「少しだけなら、付き合う」


 その体温に寄りかかりながら、私は台帳を閉じた。


 もう血統は隠せない。もう私も、自分の幸せを隠さない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ