第19話 本物の王女と本当の求婚
査問から三日後、第一王女ヘレーネの身分回復が正式に布告された。
王都は大騒ぎだったが、当の本人であるエルザ――改めヘレーネは、修道院で育った会計係らしく落ち着いていた。
「いきなり王女と言われても、数字の方が得意です」
私が笑うと、彼女も少しだけ笑った。
「でも、あなたがいなければ私は一生、誰かの都合で捨てられたままでした」
「私は書類を読んだだけよ」
「その書類を最後まで信じたのは、あなたです」
そう言われると、胸の奥が静かに温かくなる。
その帰り際、城門前でエドガーに呼び止められた。拘束下の身らしく手首に封印具をつけ、かつての整った姿は見る影もない。
「マルティナ」
私は立ち止まらなかった。
「悪かった。だが私は家を守るしか」
「私は自分を守っただけです」
振り返って、それだけ告げる。
「あなたは私を愛していなかった。仕事も、誇りも、全部使える部品だと思っていただけ」
エドガーは言い返せなかった。
日暮れの庭園へ出ると、ルーファスが待っていた。いつもの黒い外套ではなく、式典用の白金の制服姿だ。
「話は終わったか」
「ええ。完全に」
彼は一通の契約書を差し出した。あの契約花嫁の文書だ。中央に、すでに破棄線が引かれている。
「契約はここで終わりだ」
少しだけ胸が空く。けれど次の言葉が、その空白を埋めた。
「そのうえで、改めて頼みたい」
ルーファスは不器用なほど真剣な顔で言った。
「私と本当に結婚してくれないか。保護のためではなく、隣にいてほしいから」
私は思わず笑ってしまった。
「監査期間が短すぎる気もしますけど」
「延長申請は受けつける」
「なら」
私は彼の手を取った。
「今度は契約じゃなく、私の意思で受けます」




