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第11話 王宮舞踏会の仮面婚約

王都に戻った私たちは、三日後の建国記念舞踏会へ出席した。


 契約花嫁としての最初の公務だ。深藍のドレスに近衛総長家の仮紋章。ルーファスの腕に手を添えて大広間へ入った瞬間、視線が一斉に集まるのがわかった。


「見られ慣れていないか」


「監査官は書類を見る側ですから」


「今夜は見られる側でもある」


 低い声に少しだけ口元が緩む。舞踏会の音楽は華やかだが、私の仕事は別にある。王太子派の反応を見ることだ。


 レオポルトは玉座脇からこちらを見下ろし、エドガーは目に見えて顔色を失った。彼は私が失脚して修道院あたりに追いやられると思っていたのだろう。近衛総長の婚約者として戻ってきた私は、ずいぶん都合が悪いはずだ。


 挨拶回りの最中、王宮宝物庫を預かる老女官が私の手元を見て目を細めた。


「そのドレス留め、近衛総長家のものにしては古風ですね」


「貸与品です」


 ルーファスが何気なく返したが、私は心に留めた。古風。宝物庫。旧式の封蝋。つながりそうな言葉が増えていく。


 やがてエドガーが近づいてきた。


「少しだけ話せないか」


「婚約者の前で?」


「仕事の話だ」


 ルーファスが無言で私を見る。私は頷き、回廊へ出た。


 そこでエドガーは、かつて私に向けたことのない焦りを見せた。


「まだ引き返せる。あの焼けた紙切れ一枚で王家を揺らす気か?」


「揺れる程度の土台なのよ」


「王太子殿下を偽物扱いすれば、君も無事では済まない」


「だからあなたは必死なのね」


 エドガーは歯を食いしばった。


 彼がここまで動揺するなら、私は正しい場所を掘り当てている。



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