表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

第二話:理論なき魔術は、ただの欠陥品だ

このシリーズは既に完結まで執筆しております。

3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。

外に出るのは、いつ以来だろうか。

肌に触れる空気は少し冷たかったけれど、決して不快なものではなかった。


「ここでいいだろ。遮蔽物もないし、お前の工房を壊す心配もない」


メディウスが足を止めた。工房から少し離れた、なだらかな丘。視界が開け、戦うには申し分のない場所だ。


「……本気なんですか?」

「もちろん。俺が手を抜いて勝っても、お前は納得しないだろ?」


メディウスが軽く肩を回す。その無造作な仕草ひとつで、周囲の魔素がピリリと引き締まるのが分かった。この人、本気だ。国家魔術師としての「格」が、肌を刺すようなプレッシャーとなって伝わってくる。


「お前も遠慮するなよ。死なない程度に可愛がってやるから」

「……」


正直に言えば、あまりやりたくない。戦うこと自体に興味はないし、何より魔術を振るうことへの恐怖は、まだ完全には消えていないのだ。

けれど、この男を黙らせるには、理屈よりも結果を見せるしかないことも分かっていた。


「……分かりました。条件は?」

「簡単だ。俺に一発でも入れれば、お前の勝ち。逆に、俺の魔術でお前が動けなくなったら、俺の勝ち。……妥当だろ?」

「……否定できないのが、少し腹立たしいですね」


僕はため息をつき、静かに構えた。


「じゃあ、いくぞ。――『万物を縛る見えざる鎖よ、我が意に従え』! 『重圧(グラビティ・プレス)』!」


初歩的な重力魔術。直後、大気が鳴動した。


「っ……!」


一瞬で体が沈み込んだ。見えない巨人に肩を押し潰されているような感覚。膝が悲鳴を上げ、地面に数センチほどめり込む。


「どうした? 立てないか? 国家魔術師の重力は、引きこもりには少し重すぎたか?」


頭上から降ってくる、余裕に満ちた声音。……確かに強い。無駄のない魔素配分、教科書を体現したような完璧な構築。

だからこそ――。


「……でも。問題は、そこじゃないんです」


僕は意識を切り替えた。


「――『解析(アナライズ)』」


世界から色が抜け、情報の海が広がる。視界の中で魔素が奔流となり、複雑な構築図を描き出す。重力を発生させるための流れ、圧縮の軸。

完璧に見える構築。けれど、僕の目には「それ」が見えていた。


「……見えた。やっぱり、ある」


構築の中に潜む、確実な“揺らぎ”。


「ほう?」


メディウスの声が、わずかに色を変える。


「その重圧の中で、まだ喋る余裕があるのか」

「余裕じゃないですよ。ただ――分かってしまうだけです」


ポケットから、いつもの銀の針を取り出した。指先で弄ぶ。指に吸い付くような、いつも通りの感触。


「……何だ、それは。ただの工具か?」

「戦闘中だからこそ、必要な道具です。……魔術は、壊せる」


一歩、踏み出す。鉄の塊を背負っているような重さだ。けれど、歩けないほどじゃない。


「崩せますよ。……こうやって」


さらにもう一歩。構築の中心へ肉薄する。


「――『重圧(グラビティ・プレス)』最大展開!」


メディウスが追撃の詠唱を重ねた。圧力が倍加し、足元の地面に亀裂が走る。


「っ……!」


視界が白く霞みかける。けれど、僕は迷わなかった。


「……ここだ」


揺らぎ。ほんの一瞬の、魔素の同期ずれ。

そこに、銀の針を――垂直に、突き立てる。


「――『遮断(インターセプト)』」


ちり、と。線香花火が弾けるような小さな音が、静寂に響いた。


それだけ。たったそれだけの干渉で、世界を縛っていた重圧が、嘘のように霧散した。


「……なに?」


メディウスの声が、驚愕に震える。


「不安定な結節点を、断ち切りました。それだけです」


僕は乱れた息を整えながら答えた。


「魔術は、論理的に連続した流れです。どこか一箇所でもその連続性を欠けば、全体が成立しなくなる。そこを突けば、どんな高位魔術でもただの霧に還ります。……それだけのことですよ」


「……なるほどな。面白い。最高に面白いぞ、エディ!」


メディウスが、愉快そうに、けれど底知れないプレッシャーを纏って笑い出した。周囲の魔素が、先ほどとは比較にならない密度で集束していく。


「だったら――これはどうだ? 『大地よ沈め、天よ押し潰せ。因果を歪め、絶対の理をここに示さん』! 『重力崩落(グラビティ・コラプス)』!!」


――来る。視界が歪むほどの超重力。

地面そのものが巨大な穴のように陥没し、周囲の小石や枯葉が粉々に砕け散る。


「……」


けれど、やることは同じだ。


「――『解析(アナライズ)』」


構築は迷路のように複雑化している。多重に組まれた魔素の回廊。それでも、意思が介在する以上、そこには必ず、わずかな“ズレ”が生じる。


「……そこだ!」


沈み込む大地に足を踏ん張り、僕は無理やり前進した。肋骨が軋む音が聞こえる。けれど、ここで止まれば終わる。


針を構える。狙いは、構築の最深部――魔素の「心臓」。


「――『遮断(インターセプト)』!」


鋭く、突き刺した。


瞬間。世界から、すべての音が消えた。

狂ったような重圧も、大気の震えも、すべてが白昼夢だったかのように静まり返る。


「……嘘だろ」


メディウスが、呆然と呟いた。本気で、心からの驚愕。


「……一発、でしたよね。続けますか?」


メディウスが、今度は子供のように屈託なく笑った。


「俺の負けだ。完敗だよ。……いや、余計に興味が湧いた。お前のその『目』にな」


「……嫌な予感しかしない」


「来い、学院に。非常勤講師としてな。お前のその『魔術を物理的に解体する』技術……放っておくにはもったいなさすぎるんだよ」


メディウスの瞳に宿った熱量は、消えるどころか増していた。


「……」


一人、丘の上に取り残される。

平穏だった引きこもり生活に、大きな亀裂が入ったような気がした。


厄介で、不本意で。

けれど――手の中の銀の針を見つめ、僕はほんのわずかに、自分でも気づかないくらい微かに、笑っていた。


【※読者の皆様へ。重要なお知らせ】


この話を読んでいただきありがとうございます。


「面白いかも! 続きが楽しみ!」

「陰ながら応援してるよ!」

「引き続き頑張ってください!」


と思ってくださった方は、この下にあるポイント評価欄を【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】にして、『ポイント評価』をお願いします。

是非とも宜しくお願いいたします。


今後も更新を続けていく為の大きな励みになりますので、どうか何卒よろしくお願いいたします。


↓広告の下あたりに【☆☆☆☆☆】欄があります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ