↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
37/38

第二話:公表された七賢人。変わらぬ教室の風景

このシリーズは既に完結まで執筆しております。

3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。

正直に言うと。


「……やりすぎましたね」


僕は教官室の机に突っ伏しながら、消え入りそうな声で呟いた。

窓の外、学院の中庭にはいつもより明らかに人が多い。色めき立った生徒や、中には外部の記者らしき姿まで混じっている。理由は単純明快だ。

僕が「七賢人」の一人であるという事実が、正式に公表されたからだ。


「いやいや、『やりすぎた』で済ませるなよ、『七賢人のエディ・ノイマン』」


向かいの椅子に座っているメディウスが、愉快そうに肩を揺らした。


「王都中がひっくり返るような騒ぎだぞ。『正体不明の七賢人が、実は学院のさえない講師だった』ってな。劇的じゃないか」

「……他人事だと思って」


分かっていたことだ。だからこそ、本当は一生隠し通すつもりだった。

けれど、あの報告書を燃やした瞬間に、僕は「陰に潜む賢者」であることを止めたのだ。責任を負うということは、表に出るということでもある。


「で? どうするんだよ、この後。注目の的だぞ」

「どうする、とは」

「決まってるだろ。今日の講義、見物人で教室が埋まるぜ。まともに授業なんてできるのか?」


メディウスの指摘に、僕は少しだけ考えた。

いや、答えは最初から決まっている。


「いつも通り、やります」

「は?」

「僕はここの講師ですから。肩書きが何であれ、教壇でやることは変わりません」


それが僕の矜持だ。七賢人の権威で人を動かすのではなく、一人の技師として理屈を説く。それだけだ。


「……ははっ、本当にお前は変わらねえな」


メディウスは呆れたようにため息をつき、立ち上がった。


「まあ、安心しろ。ミラ理事長の方で『過度な干渉は禁止』と通達を出したらしい。見物人はともかく、変な連中が絡んでくるのは防げるはずだ」

「……ありがたいですが、完全に見透かされていますね」

「違いない。じゃあな、時の人。お手並み拝見といこうぜ」


ひらひらと手を振り、メディウスは部屋を出ていった。

静寂が戻る。僕は眼鏡をかけ直し、ゆっくりと立ち上がった。

逃げる理由は、もうどこにもない。

教室の前に立つ。扉の向こうから、これまでにないほどのざわめきが漏れ聞こえてくる。


「……ふう」


一度だけ深く呼吸し、ガラリと扉を開けた。

一瞬で、全ての視線が僕に突き刺さる。


「……あ」

「本物だ……本当に彼が……」

「二代目エンビィー・ノワール……」


ひそひそとした囁きが波のように広がる。教室内には、本来の受講生ではない生徒たちも壁際にまで溢れかえっていた。

だが、その喧騒の真ん中に、いつもの見慣れた顔があった。

クロエがにやりと不敵に笑い、リテラはいつも通り静かにノートを広げている。レオンは腕を組み、面白くなさそうに鼻を鳴らした。


(……彼らが変わらないのなら、大丈夫だ)


教壇に立ち、僕は一度だけ咳払いをした。


「えー……まず一つ、訂正があります」


教室内が水を打ったように静まり返る。


「僕が七賢人の一人であるという話ですが、正確には、その称号を継承した『二代目エンビィー・ノワール』です」


ざわっ、と空気が揺れた。歴史に名を刻む破壊の象徴。その名が持つ重みに、数人の生徒が息を呑むのが分かった。


「ただし」


僕は一拍置き、はっきりと言い切った。


「それと、この授業の内容は一切関係ありません。ここでは、七賢人としてではなく、一人の魔術技師として教えます」



一呼吸おいて、教室全体を見渡す。


「……なので、見物だけが目的の方は、今のうちに帰っていただいて構いません。ここから先は、ただの退屈な技術論ですから」


沈黙が数秒続いた。

やがて、気まずそうに顔を見合わせ、野次馬目的だった他クラスの生徒たちが数人ずつ立ち上がった。


「……すみません」

「いや、その、失礼しました」


彼らが去り、教室には本来の生徒たちと、純粋に僕の言葉に興味を持った数人だけが残った。


(……よし。これでいい)


「では、始めます」


チョークを取り、黒板に迷いのない線を引く。


「前回は『術式の不備』について話しましたね。今日はその続き――『なぜ不備は生まれるのか』についてです」


振り返ると、生徒たちの目が変わっていた。「伝説の賢者」を見る好奇の目ではない。教えを請う「学生」の目だ。


「例えば、詠唱起動。便利ですよね。どこでも使えるし、応用も効く」


クロエが大きく頷く。


「でも、その分だけ『曖昧さ』が残る。言葉は人によって解釈が違う。その微細なズレが積み重なり、限界を超えたとき……」


チョークを置き、僕は静かに告げた。


「――魔術は、暴走します」


静寂。


「だからこそ、僕たちは構築を理解しなければならない。魔術は、決して不可解な神秘ではない。そこには確かな仕組みがあり、理屈があります」


一歩、教壇から踏み出す。


「そして、仕組みである以上……それは、壊れます」


生徒たちが息を呑む。


「でも。壊れるものなら、直せる。改良もできる。それが、僕たちが志すべき『技術』です」


言い切った。

ほんの数秒の沈黙の後、レオンが小さく独り言のように呟いた。


「……なるほどな。だから『構築』から叩き込んでたのか」


その一言で、教室の空気が完全に定まった。

届いている。肩書きという虚飾ではなく、僕が伝えようとしている本質が。

少しだけ、胸の奥の支えが取れたような気がした。


「では、実際にやってみましょうか。この構築式のどこに『綻び』があるか……探してみてください」


教室が、一気に前のめりになる。

そこにはもう、騒がしい有名人はいない。いるのは、どこにでもいる、けれど誰よりも真剣な講師と生徒たちだ。


(……これでいい)


僕は小さく微笑み、チョークを握り直した。

肩書きなんて関係ない。僕はただ、魔術という不器用な道具の扱い方を、彼らに伝えていくだけだ。


午後の柔らかな光が差し込む中、僕たちの新しい授業が始まった。


【※読者の皆様へ。重要なお知らせ】


この話を読んでいただきありがとうございます。


「面白いかも! 続きが楽しみ!」

「陰ながら応援してるよ!」

「引き続き頑張ってください!」


と思ってくださった方は、この下にあるポイント評価欄を【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】にして、『ポイント評価』をお願いします。

是非とも宜しくお願いいたします。


今後も更新を続けていく為の大きな励みになりますので、どうか何卒よろしくお願いいたします。


↓広告の下あたりに【☆☆☆☆☆】欄があります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。