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第一話:乙女の戦線。停戦協定と共通の目標

このシリーズは既に完結まで執筆しております。

3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。

放課後。

西日に照らされた廊下で、二人の少女が向かい合っていた。

一人は直感的な才気と勝気な瞳を持つクロエ。

もう一人は、静謐な佇まいの中に鋭い知性を秘めたリテラ。

二人の間に流れる空気は、穏やかとは程遠い。張り詰めた糸のような緊張感が、無人の廊下を支配していた。


「ねえ」


沈黙を破ったのはクロエだった。

軽い調子を装っているが、その声の端々には隠しきれない硬さが混じっている。


「聞きたいことあるんだけど」

「……はい」


リテラは動じることなく、静かに応じた。


「先生のこと。……どう思ってる?」


単刀直入な問いだった。

リテラの指先が、わずかに、だが確かに動く。


「……尊敬しています。魔術構築の技術も、その考え方も」


一拍。


「それに……とても、優しい方です」


リテラの回答を、クロエはじっと見据えていた。まるで言葉の裏に隠された真意を暴こうとするかのように。


「ふーん」


クロエが一歩、距離を詰める。


「それだけ?」

「……はい」

「嘘」


即答だった。

廊下の温度が一段下がったかのような錯覚。クロエは逃げ場を塞ぐように言葉を重ねる。


「分かるよ、その言い方。……好きでしょ」


沈黙。

否定は返ってこなかった。それが何よりの饒舌な回答となった。

普段は余裕を見せるクロエだが、今の彼女にはそれがない。焦燥がその表情を僅かに歪ませていた。


「……それが、何か問題ですか」


リテラが静かに問い返す。揺れ動く心を押し殺し、彼女もまた正面から受けて立った。


「問題あるよ。……ウチもだから」


はっきりとした宣言だった。

リテラの瞳が大きく揺れる。


「だからさ」


クロエが不敵に笑う。


「勝負しよ。魔術で。……勝った方が、先生に告白。どう?」


風の音だけが通り過ぎる。

あまりに強引で、あまりにクロエらしい提案。


「……そんな条件、受け入れる理由がありません」

「逃げるの? 自信ない?」


挑発的な言葉。クロエはさらに一歩、リテラのパーソナルスペースへと踏み込む。


「それとも、ウチに負けるのが怖いの?」

「……分かりました」


リテラが小さく息を吐き、覚悟を決めたように顔を上げた。


「……受けます」

「――そう来なくっちゃ」


場所を訓練場へと移す。

向かい合う二人。合図など必要なかった。

先に仕掛けたのはクロエだった。


「『風よ、我が道を切り裂け』! 『風刃(ウィンド・カッター)』!」


詠唱起動による連続攻撃。

リテラはそれを最小限の動きで回避し、同時に精密な防御障壁を展開する。完璧な処理。

だが、クロエの眉がぴくりと動いた。


「……ねえ。手、抜いてるでしょ」

「……そんなことは」


否定するリテラだが、その一瞬の躊躇を見逃すほどクロエは甘くない。


「今のリテラなら先生みたいにウチの魔術を『遮断(インターセプト)』できるよね?」

「…………」


魔素の密度が跳ね上がる。


「壊したくないんでしょ。今の関係とか、そういうの」


図星だった。リテラは波風を立てることを恐れていたのだ。


「でもさ、それってウチに失礼だよね。本気で来てよ。じゃないと、勝っても意味ない」


その言葉が、リテラの中の何かに火をつけた。


「……分かりました」


次の瞬間、空気が鳴動した。

リテラの周囲で魔素の密度が爆発的に上昇する。


そこからは、正真正銘のぶつかり合いだった。

精密な制御と、鋭い閃き。

才能と努力。

互いのすべてをぶつけ、火花を散らす。

何度も、何度も衝突を繰り返し――やがて、二人の魔力は同時に限界を迎えた。


静寂が戻る。


「……はあ……引き分け、か」


クロエが荒い息をつきながら呟く。


「……はい」


リテラもまた、膝に手をつき、肩を揺らしていた。

しばらくの沈黙の後、クロエが不意に口を開いた。


「……ねえ。さっきの話、無しにしよ。告白のやつ」

「……え?」

「今やっても意味ないし。もっと強くなってからさ、同時に言おうよ」


クロエは肩をすくめ、リテラを見据えた。


「停戦。一旦ね」

「……分かりました。その代わり、負けません」


二人の間に再び火花が散る。だが、そこにはもう先ほどのような鋭いトゲはなかった。


「……クロエさん。ありがとうございました」

「は?」

「本気を引き出していただいたので」


クロエは一瞬呆然とし、それから乱暴に頭をかいた。


「……あーもう、そういうとこだよ、あんた」


夕焼けに染まる訓練場。

二人は同時にはにかんだ。

競い合い、ぶつかり、それでも壊れることのない絆。

いや、ぶつかったからこそ得られた確かな熱が、そこにはあった。


二人の少女は、自分たちの未熟さを認め、さらなる高みを目指すことを誓った。

その背中は、以前よりもずっと力強く、明日への希望に満ちていた。


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この話を読んでいただきありがとうございます。


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