第六話:再戦。暴走するプライドと、守るための構築
このシリーズは既に完結まで執筆しております。
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……嫌な予感がする。
ガルドとの対峙が始まる直前、訓練場の空気が、物理的な重圧とは異なる「歪み」を帯びた。
視線の先、さっきの位置から一歩も動かない人影。レオン・ヴァルツァだ。彼は俯いたまま、地を這うような声を絞り出した。
「……まだ、終わっていません」
顔を上げた彼の瞳を見て、背筋に冷たいものが走った。焦燥、執着、そして自分を否定されたことへの純粋な拒絶。それらが混ざり合い、危うい光を放っている。
「レオン君、もう十分だ。さっきの構築、君の到達点は見えたよ」
「……違う。負けていない。俺は、まだ――!」
レオンの手が激しく震える。止めるべきだと直感が叫んだ瞬間、彼は禁忌に近い高密度の詠唱を開始した。
「『大地よ、深淵より応えよ――その力をもって、全てを押し潰せ』!」
集まる魔素の量が異常だ。制御域を遥かに超え、術式の継ぎ目からバチバチと火花のようなノイズが漏れ出す。
「『地殻崩壊』!」
瞬間、地面が悲鳴を上げ、視界が歪んだ。だが、それは強力な術の発動ではない。構築が自重に耐えきれず、内部から「暴走」を始めた予兆だった。
「レオン君! ダメだ、それは崩れる!」
「……今さら、止まりませんよ。先生……ッ!」
狂ったように笑うレオンの顔が、あの日、目の前で白光に呑み込まれた師匠の背中と重なる。
(……っ。また、同じことが――)
呼吸が止まり、足がすくむ。視界が白く染まりかけたその時、鋭い声が僕を現実に繋ぎ止めた。
「先生! 危ない、逃げて!」
「エディ先生……!」
クロエとリテラの叫び。……そうだ。あの時とは違う。今の僕には、目の前で怯える生徒たちがいる。守るべき「今」がある。
僕は震える右手を左手で抑え、深く、長く息を吐いた。
(大丈夫だ。やることは、いつもと同じ。……壊すんじゃない。守るんだ)
視線を上げ、暴走の渦中へと踏み出す。
(――解析)
脳内に流れ込む膨大なノイズ。歪な構造、過剰な魔素、連鎖する崩壊の起点。一点を突くだけではこのエネルギーは殺せない。
(なら、全部を支えるまでだ)
銀の針を三本、指の間に挟む。
「先生!? 何を――!」
「大丈夫。ちょっと、直してくるだけだよ」
叫ぶクロエに軽く手を振り、僕は魔力の奔流の「核」へ手をかざした。
(――解析。深度最大。……見えた。ここが連鎖の終着点だ)
一本目の針を突き立てる。
(――遮断)
暴走する流れを一時的に分断。だが、溢れた魔素がすぐさま別の歪みを生む。
(想定内だ。……次はこれだ)
二本目、三本目を同時に。
(――再構築
意識を尖らせ、荒れ狂う魔素の奔流を「本来あるべき形」へと無理やり編み直していく。膨張していた力が、僕の手元で急速に収束し、静かな光へと変わっていく。
そして。
訓練場に、完全な無音が訪れた。
暴走しかけた「地殻崩壊」は、発動することなく、ただの穏やかな光の粒子となって消えた。
「……え」
呆然と立ち尽くす観客。レオンはその場に膝をつき、震える手で地面を叩いた。
「……俺は。何を……」
僕はゆっくりと彼に歩み寄り、その肩に手を置いた。
「レオン君。さっきの、危なかったね」
「……はい」
「でもね、止められたよ。君が止まれなかった分、こっちで止めた。……だから次は、自分の意志で止まれるようになろう」
レオンが顔を上げる。その瞳からは闇が消え、滲んだ悔しさだけが残っていた。
「……俺は。まだ、強くなれますか」
「なれるよ。今の恐怖を、ちゃんと覚えていられるならね」
レオンが小さく頷くのを見て、僕は顔を上げた。そこには、険しい表情でこちらを見つめるガルドがいた。
「……私の責任だ。危険な術を、未熟な彼に授けた」
ガルドは一度目を閉じ、だが再び開いた瞳には揺るぎない信念が宿っていた。
「だが、私の考えは間違っていない。魔術は力だ。力なき者に、誰も守れはせん。……エディ先生、あなたのやり方は、あまりに甘い」
「……そうかもしれません。でも、壊れた時に誰も守れないような力は、僕はちょっと怖いんです」
素直な思いをぶつけると、ガルドはわずかに口元を歪めた。
「……面白い。ならば、その『甘さ』で私の『正統』を凌駕してみせろ。次は、私とだ」
どよめきが今日一番の大きさで沸き起こる。
僕は小さく息を吐き、手の中の銀の針を握り直した。視線の端で、レオンがじっと僕の手元を見つめている。
――次は、壊さないために。
その静かな決意を背負って、僕は老魔術師へと向き直った。
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