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第五話:合同演習。正解は一つではない

このシリーズは既に完結まで執筆しております。

3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。

……正直、気が進まない。

教室の前に立つだけで、妙に喉が渇く。


工房にいれば、こんなことはないのに。静かな空間。油の匂い。考えて、組み立てて、直して。それだけで完結していた世界。なのに。


(……なんで、こんなに人がいるんだ)


扉を開けた瞬間、思わず目を細めた。教室はすでに満員。席に座りきれず、壁際に立つ生徒までいる。


「エディ先生! こっちの構築、見てください!」

「昨日の続き、もう一回教えてもらえますか?」


あちこちから飛んでくる声。以前ほど戸惑いはないけれど、やはりこの熱気には慣れない。


「うん、順番にいこうか。リテラさん、その図式いいね。でも、ここだけ少し『余白』を残してみよう」

「余白……ですか?」

「そう。崩れたときに、流れを逃がせるように。……クロエさんは、その接続、かなり綺麗だ。ただ、ここを詰めすぎると逆に不安定になるよ」

「……あ、本当だ。通りが良くなった!」


生徒たちの反応が変わってきている。「分からない」という霧が晴れ、「気づき」の光が宿る瞬間。

(……伝わってる。教えるのも、悪くないな)

そんなことを思った、その時だった。


「ずいぶんと、盛況ですね」


低い、地を這うような声。ガルド・ハイマンスが入口に立っていた。教室の空気が、一瞬で氷点下まで下がる。


「理論もいいが、これだけの人数だ。実践の方が理解も早いだろう。……エディ先生、合同演習を提案したい」

(……来た。嫌な予感は、いつも当たるな)

「実戦形式だ。断る理由はありませんね?」


ガルドは満足そうに目を細めた。断定。逃げ道はない。


訓練場。

広い空間を埋め尽くす人影。他クラスの生徒まで集まり、完全に学院のイベントと化していた。


「エディ先生、少し緊張します……」


不安げなリテラとクロエに、僕は苦笑して頷く。


「大丈夫。いつも通りでいい。……さあ、始めるぞ」


ガルドの号令が響き、場が静まり返る。

「本日は合同演習。テーマは単純――『実戦』だ。レオン・ヴァルツァ、前に出ろ」


レオンが進み出る。無駄のない動き。だが、その瞳の奥には、以前にはなかった鋭すぎる「焦燥」が揺らめいていた。


「相手は――エディ先生だ」


どよめきの中、僕は中央へ歩む。


「よろしくお願いします」

「……はい。お願いします」


丁寧な口調。だが、レオンの手は杖を強く握っていたがわずかに震えていた。


「始め!」


合図と同時。

「『風よ、集え――』!」


速い。風刃が一直線に僕を狙う。

(――解析(アナライズ))


瞬時に術式を解体する。流れ、接続、密度。その継ぎ目に、銀の針を滑らせる。

(――遮断(インターセプト))


――カチ。

風が霧散する。間髪入れず、レオンは次の手を打つ。


「『水よ、奔れ――』!」

(連携はいい。だけど……)


解析と遮断。

――パキン。

水流もまた、形を成す前に消える。観客席から「何だ今の……!」と驚愕の声が上がる。


「『雷よ、穿て!』『土よ、応えよ!』」


複合詠唱。土壁による遮蔽と雷の同時展開。かなり組み上げてきている。だが、そのすべてが「正しすぎる」。

(解析(アナライズ))


複雑な構築を分解し、もっとも脆い一点を突く。

(遮断(インターセプト))


――バチッ!

雷が消え、土が崩れる。完全な静寂。

レオンの荒い呼吸だけが響く。


「……なぜだ。完璧だったはずだ……!」


愕然とする彼に、僕は少しだけ近づいた。


「レオン君。今の、すごく良かったよ。でもね、完成させすぎなんだ。崩されたときの『次』がない。魔術は壊れる前提で考えると、もっと強くなる」


レオンは黙る。拳が震えている。その目は、僕の助言を咀嚼するよりも先に、敗北の屈辱を飲み込もうと必死だった。


「……まだです。もう一度、お願いします」

(……その声。少し、危ないな)


焦りが、彼の理性を焼き切ろうとしている。


「いいよ。やろう」


答えた、その時。


「そこまでだ」


ガルドの声が、非情に演習を打ち切った。


「……ガルド先生、まだ!」

「十分だ。実力差は明白だ」


冷たい断定に、レオンは歯を食いしばり、ゆっくりと下がっていった。その背中には、以前よりも深い闇が宿っているように見えた。


代わって、ガルドが一歩前に出る。


「エディ先生。興味深い技術だ。次は、私が相手をしよう」


場が、凍りつくような威圧感に包まれる。

(……やっぱり来るよね。正直、気が進まないけど)


僕は銀の針を握り直し、老魔術師を見据えた。


「よろしくお願いします」


その奥で、レオンが拳を握りしめているのが見えた。

――まだ、終わっていない。

その瞳に宿る執念が、これから起こる嵐を予感させていた。


【※読者の皆様へ。重要なお知らせ】


この話を読んでいただきありがとうございます。


「面白いかも! 続きが楽しみ!」

「陰ながら応援してるよ!」

「引き続き頑張ってください!」


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是非とも宜しくお願いいたします。


今後も更新を続けていく為の大きな励みになりますので、どうか何卒よろしくお願いいたします。


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