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第二話:君の設計図は、美しい。エディの直接指導

このシリーズは既に完結まで執筆しております。

3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。

……静かだ。

部室に入って、最初に思ったこと。


人の気配はある。紙の擦れる音も、ペン先が走る音もする。でも、それだけだ。

(いいな、この感じ。……工房に近い。余計な雑音がない、思考のための空間だ)


リテラは、もう机に向かっていた。さっき僕が手を入れた図面を食い入るように見つめ、続きを描いている。

(切り替えが早いな……。いや、それだけ没頭しているのか)


感心しながら、背後からそっと覗き込む。

線が増えている。たださっきの修正をなぞるだけじゃない。その変更を起点にして、全体のバランスを自分で組み直そうとしている。


(……なるほど。ちゃんと構造を自分のものにしようとしている。ただ教えを請うだけの生徒じゃないな、この子は)


「リテラさん」

「……っ!」


びくっと肩が跳ね、彼女は慌てて図面を隠そうとした。


「ご、ごめんなさい……勝手に、書き直してしまって……!」

「え? なんで謝るの」

「その……先生の修正を、無下にするような真似を……」

「いや、むしろその方がいいよ。自分で触らないと、術式の感触は分からないからね」


一歩、彼女の横に立つ。リテラがおそるおそる僕を見上げた。


「……怒らないんですか? 自分の正解を書き換えられても」

「君が僕を超えてくれたら、むしろ嬉しいけどな」


軽く言うと、リテラは完全にフリーズした。……あ、これ、思考がオーバーヒートして固まるやつだ。


「ほら、見てごらん。ここ、良くなってる」


僕は固まっている彼女を余所に、紙の端を指さした。


「さっきより魔素の流れが自然だ。接続の角度を変えたんだね」

「……! 本当に……そう、見えますか?」

「うん。迷いがない良い線だ」


はっきり伝えると、リテラの口元がほんのわずかに、誇らしげに緩んだ。分かりやすい子だ。


「ねえ、リテラさん。今、何を作ってるの?」

「……魔術具、です。魔素の供給を安定させるための、補助装置を」

「誰が使う想定だい?」


問いかけると、彼女の言葉が詰まった。


「えっと……それは……」

「……決めていなかった?」

「……はい。ただ、理論として完成させたくて……」


申し訳なさそうに俯く彼女に、僕は教卓ではなく、職人の作業机を挟むような距離感で向き合った。


「それは、ちょっともったいないな。魔術具っていうのはさ、『誰が使うか』で形が、ひいては『正解』が変わるんだ」


僕は一枚の白紙を引き寄せた。


「魔術が苦手な子が使うなら、暴発しないように安全弁を増やす。でも、上級者が使うなら、出力の微調整ができるようにあえて遊びを作る。どっちも正解だけど、同じ形じゃダメなんだ。……リテラさん、君は誰のためにこれを作っている?」


リテラはゆっくりと視線を落とし、自分の描いた美しい、けれどどこか孤独な図面を見つめた。


「……私は、自分が使うつもりで、作っていました。私のように、出力が不安定な人間でも、魔術を……」

「いいね。なら、もっと遠慮はいらないよ。自分の癖に合わせて、自分専用に尖らせていい」


僕はさらに一歩踏み込み、図面の一点を指す。


「魔素の流れ、感じているだろ? どこか、気持ち悪い場所はないかな」

「……ここ、です」


彼女が指さしたのは、主回路の接続部だった。


「流れが、少し……重い感じがして。でも、理由が分からなくて……」

「理由はあるよ。ここ、魔素の密度の偏りだ」

「密度……?」

「そう。魔素の通り道の『広さ』が揃っていない。ここだけわずかに狭いから、流れが詰まって摩擦が起きてる。……ほら、ここを数ミリ広げてごらん」


ペンを渡すと、リテラは震える手でそれを受け取り、慎重に線を書き換えた。

線を、広げる。ほんの、少しだけ。


「……どうですか?」

「流してみて」


リテラが触媒を手に取り、静かに魔素を注ぎ込む。

空気が、凛と澄んだ音を立てるように揺れた。


「……っ!」


リテラの肩が震えた。


「流れが……軽い……! 抵抗が、消えました……!」


その声は、驚きと喜びに満ちて弾んでいた。自分が「なぜ」重かったのかを理解し、自分の手で解決した瞬間の快感。技師が一生追い求める、あの至福の瞬間だ。


「ね? 理由が分かれば、調整ができる。それが構築の本質だ」

「……先生。私……もっと、上手くなれますか?」


まっすぐな、濁りのない瞳。僕は迷わずに答えた。


「なれるよ。絶対だ」

「絶対……?」

「うん。ただし、ちゃんと考え続けたら、ね。答えをもらうんじゃなく、自分で作る。それができるなら、君はどこまでも行ける」


リテラは深く、深く息を吸い込み、力強く頷いた。


「……やります。私、やってみたいです」


(よし。この子は、もう大丈夫だ)


夕日が部室に差し込み、琥珀色の光が彼女の図面を照らす。まだ粗削りだけれど、そこには確かに、彼女だけの「意志」が宿り始めていた。


「じゃあ、今日はもう一つやろうか」

「……! はい!」

「魔術具の基本……『壊れ方』を知る。……壊すんじゃないよ? どこに負荷をかけたら、どう崩壊するかを知るんだ。作るより、ずっと大事なことだよ」


リテラの顔に、驚きと、そして隠しきれない期待が浮かぶ。


静かな部室。沈みゆく太陽の下で、僕たちの時間は、ゆっくりと、けれど熱く深まっていった。


【※読者の皆様へ。重要なお知らせ】


この話を読んでいただきありがとうございます。


「面白いかも! 続きが楽しみ!」

「陰ながら応援してるよ!」

「引き続き頑張ってください!」


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