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第七話:放課後の予兆。保守派ガルドの視線

このシリーズは既に完結まで執筆しております。

3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。

……やっぱり、疲れるな。

廊下を歩きながら、小さく息を吐く。


人と話すこと自体は、嫌いじゃない。でも、向けられる「期待」や「評価」という名の視線にさらされるのは、まだ慣れない。

さっきの授業、思ったよりはちゃんと届いていた。


(クロエさんは完全に火がついたし、リテラさんは……もう一段、上の領域へ行きそう。レオン君も――)


少しだけ、足を止める。

あの折れかけたプライドを必死に繋ぎ止め、前を向いた少年の顔を思い出す。

(あの目は本気だ。ああいうのは、驚くほど伸びる。……いい教室だな)


無意識に口元が緩んだ、その時だった。


「随分と、楽しそうでしたね」


低く、抑えられた声。だが、そこには隠しきれない棘(とげ)があった。

振り返ると、そこに一人の男が立っていた。


「……確か……ガルド・ハイマンス先生」


ガルド・ハイマンス。

この学院で長く教鞭を執る、保守派の重鎮だ。背筋は定規を当てたように真っ直ぐで、微塵の隙もない。ただ、眼鏡の奥の瞳だけが冷徹にこちらを射抜いていた。


「初めまして、でしょうか。……非常勤講師のエディ・ノイマンです」

「……魔術技師、でしたか」


短く、吐き捨てるように言われる。ガルドはじっと僕を見つめていた。まるで、磨き上げられた石碑に付いた汚れでも探すかのような、値踏みの視線だ。


「授業、拝見しましたよ。後ろから」


心臓が少し跳ねた。全く気づかなかった。教壇で構築を解体することに、それほど集中していたのか。


「率直に申し上げましょう。理解し難い内容でした」

「……そうですか」

「魔術は体系化された崇高な学問です。先人たちが長い年月をかけて、最適化し、完成させてきた」


一歩、彼が近づいてくる。圧倒的な「正論」の圧。


「それを、安易に『壊す』などという教え方は……生徒を無用な危険に晒します。技師の浅知恵で、伝統を汚さないでいただきたい」


廊下の空気が、ピリリと張り詰める。

なるほど、こういうタイプか。伝統を守り、規律を重んじる。それは教育者として間違ってはいない。


「ごもっともです。ガルド先生の仰ることは、正しい」


僕が素直に認めると、ガルドはわずかに眉を動かした。


「ですが、僕は壊しているつもりはありません。むしろ……直しているんです」

「……何だと?」

「魔術は完成されている、と仰いましたね。……僕はそうは思いません。不完全です」


被せるように言い切る。一瞬、沈黙。空気が物理的な重さを伴って沈み込んだ。


「……その根拠は」

「事故、ですよ。この学院でも起きましたよね? 理解しないまま使い、制御を失って壊れる。それが今の魔術の現状です」

「それは未熟ゆえの失態だ。だからこそ我々は――」

「だからこそ、理解する必要があるんです。仕組みから、構造から」


僕は一歩、距離を詰めた。


「ガルド先生。先生の仰る『安全な型』は、本当に安全ですか?」


ぴたり、と。大気が凍りついた。


「……どういう意味ですか」

「型を覚え、中身を知らないまま使う。それって、もし想定外の事態で型が壊れた時、対処できないですよね? それが一番危ないと、僕は思うんです」


ガルドの視線が、わずかに揺れた。


「もちろん、全員を専門家にするのは難しい。でも、『考える癖』は教えられる。僕は、そこをやりたいんです」


長い、長い沈黙が流れた。

やがてガルドは、ふっと冷たい息を吐き出した。


「……理屈は分かります。ですが、私はあなたを認めません。現場で通用する魔術は、理屈だけで構成されているわけではない」


彼はゆっくりと、宣告するように告げた。


「いずれ、その傲慢な理論が通用しないことを、証明していただきます。……失礼」


ガルドは何も言わず、僕の横をすれ違っていった。遠ざかる規則正しい足音。

静けさが戻った廊下で、僕は大きく息を吸い込む。


(……怖いな、あの人は。正直、関わりたくないタイプだ)


けれど、嫌いにはなれなかった。あの人はあの人で、生徒の安全を本気で考えている。ただ、見ている方向が違うだけだ。


窓の外。燃えるような夕焼けが、白亜の校舎を真っ赤に染めていた。

教室だけじゃない。この保守的な学院全体が、少しずつ、変わり始めている。そしてその中心に、不本意ながら僕がいる。


「……やるしかないか」


誰に言うでもなく呟く。その声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。

逃げるのは、もうやめだ。工房に引きこもるだけの日々は、もう終わった。


(次の授業は、もう少し踏み込んでみよう。……壊して、直す。その先を見せるために)


廊下の先へ、エディは静かに、けれど確かな足取りで歩き出した。


【※読者の皆様へ。重要なお知らせ】


この話を読んでいただきありがとうございます。


「面白いかも! 続きが楽しみ!」

「陰ながら応援してるよ!」

「引き続き頑張ってください!」


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是非とも宜しくお願いいたします。


今後も更新を続けていく為の大きな励みになりますので、どうか何卒よろしくお願いいたします。


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