第五話:「遮断」という名の革新
このシリーズは既に完結まで執筆しております。
3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。
……空気が、変わった。
さっきまでの「得体の知れない不気味なものを見る目」が、今は違う。
「理解したい」という、飢えたような渇望に変わっている。
いいね。講師なんて柄じゃないと思っていたけれど、この瞬間だけは、嫌いじゃない。
「今の、どうやったか。気になるよね?」
軽く黒板を叩く。頷く生徒が目に見えて増えていた。窓際のクロエなんて、もう机から身を乗り出さんばかりの勢いだ。
「じゃあ、ちゃんと説明するね」
チョークを持ち、少しだけ深呼吸をする。頭の中に、師匠から受け継いだ膨大な理論の地図を展開する。
「さっき僕が使ったのは、この二つだ」
黒板に、迷いのない筆致で書き記す。
――解析
――遮断
「解析は、理解できます」
隅の席で、リテラが吸い込まれるような瞳で呟いた。
「魔術構築を、論理的なデータとして視認・把握する技術……ですよね?」
「その通り。よく分かってるね」
「解析」の文字をチョークで囲った。
「『解析』は魔素の流れや体内の魔術回路を可視化させる技法。僕の場合は直接、目で捉えることができるけど、別の方法で観測魔術などで疑似的に見ることも可能だよ。……で、問題はこっちだ」
僕は「遮断」の文字をチョークで叩く。
「これ、何をしていると思う?」
「……魔術を、消している?」
誰かが自信なさげに声を出す。
「惜しい」
僕は首を振り、黒板に一本の流麗な線を描いた。魔素の「流れ」を模した線だ。
「消してない。壊してるんだ。もっと正確に言うなら、構築の『弱いところ』に、楔を打ち込んでいる」
線の一部に、小さく印をつける。
「……楔?」
クロエが眉をひそめると、僕はポケットから一本の銀の針を取り出した。
「これ。僕の触媒だ。ちょっと特殊な加工をしてあるけどね」
針を指先で回し、光を反射させる。
「魔術はエネルギーの奔流だ。構築という名の『型』に沿って魔素が流れることで、現象として固定される。……でもね、どんなに巨大なダムでも、一箇所のひび割れから決壊するように、魔術にも『急所』がある。そこをこの針で突けば――」
チョークで描いた線を、スッと消す。
「全部、崩れる」
「……そんな、簡単に?」
レオンが、絞り出すような声で言った。
「簡単だよ。中身がちゃんと『見えて』いればね」
レオンが言葉を失い、自分の手を見つめる。
「レオン君。さっきの君の魔術、どこが弱かったか、自分では分からなかったよね?」
「……はい」
「それが、答えだ」
僕は静かに、けれど逃れられない事実を突きつけた。
「分からないまま、感覚だけで使っているから壊される。君たちの言う詠唱は、ただの『起動の合図』でしかないんだよ。どれだけ綺麗に詠唱しても、中身が雑なら、僕みたいな技師に簡単に解体される」
教室が静まり返る。これまでの「魔術教育」の根幹を否定する言葉に、生徒たちは衝撃を受けていた。
「今までの魔術は、詠唱を覚えることが『正解』だった。でも、これからは違う。構築の中身を理解することこそが『本質』だ。……そう思わない、クロエさん?」
不意に話を振られ、クロエが勢いよくペンを動かした。
「……先生。それってさ、分かれば私にも出来るようになるの?」
身を乗り出す彼女に、僕ははっきりと答える。
「出来るよ。時間はかかるけどね。ただし、自分の魔術の『違和感』に気づく力……それを見る練習が必要だ。それが分かれば、魔術は壊せるし、直せるようになる」
「直せる……?」
リテラが小さく息を呑んだ。
「『再構築』にも、繋がりますか。その技術は」
僕は思わず、少しだけ笑った。
「繋がるよ。むしろ、そっちが本命だ。『再構成』は魔術構築を読み取って、改良させる技法さ。……壊すだけじゃ意味がない。理解して、分解して、より完璧な形に組み直す。それが出来て初めて、真の『技術』になる」
リテラの目が、青白い熱を帯びて輝き始めた。彼女の中で、バラバラだった知識の破片が、一つの「真理」に向かって繋がり始めている。
「……先生」
低く、重みのある声が響いた。レオンだ。
彼は一度言葉を飲み込み、何かを振り払うように一歩前に出た。
「俺にも……出来るようになりますか。その領域へ、行けますか」
取り巻きたちが息を呑む。あの誇り高きレオン・ヴァルツァが、格下だと思っていた技師に、救いを求めるように問いかけている。
少しだけ考え、僕は答えた。
「なるよ。君には、そのための確かな才能がある」
「……っ」
「ただし。一回、捨てようか。その『分かってるつもり』っていうプライドをね。それが一番、上達の邪魔だから」
沈黙。
レオンは拳を強く握りしめ、やがてゆっくりと、深々と頭を下げた。
「……はい。ご指導、お願いします」
教室中が凍りついた。だが、次の瞬間には、熱狂に近い期待が爆発した。
「うん、任せて」
僕は軽く笑い、黒板に向き直る。
「じゃあ、授業を始めよう。まずは簡単な構築の『解体』からだ。……面白いよ。中身が分かれば、世界の見え方が変わるからね」
生徒たちが一斉にペンを走らせる音が、心地よく響く。
(……始まったな)
平穏だった工房の日々も悪くなかったけれど。
この熱狂の中に身を置くのも、案外、悪くないかもしれない。
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