第四話:衝撃の事実。君の魔術が発動しない理由
このシリーズは既に完結まで執筆しております。
3日ごとに予約投稿をしておりますので、気長に読んで頂けると嬉しいです。
……さて。
ここからが本題だ。
黒板の前で、一度チョークを置く。
教室は、耳が痛くなるほど静まり返っていた。さっきまでの、技師を侮るような薄ら笑いや、よそよそしいざわめきは綺麗に消え去っている。
いいね。ちゃんと、僕の言葉を聞く姿勢になってる。
「じゃあさ」
軽く手を叩く。乾いた音が響き、全員の視線が僕に突き刺さる。
「さっきの続き、やろうか。レオン君、もう一回、火球をやってみて」
「……承知しました」
レオンの声に、迷いはなかった。むしろ、さっきよりも深く集中しているのが分かる。
教壇の前に立つ彼に、取り巻きたちも今は野次を飛ばさない。固唾を飲んで、その一挙手一投足を注視している。
「『荒ぶる火よ、我が意に応え、敵を焼け』! 『火球』!」
――炎は、出なかった。
「……え?」
誰かが小さく声を漏らす。
レオンが、彫像のように固まった。何も出なかった杖を見つめ、困惑に目を見開いている。
「もう一度」
僕が促すと、彼はすぐに次を紡いだ。
「『荒ぶる火よ――』!」
――出ない。
魔素が集束しようとする気配はある。だが、それが形を成す直前で、砂の城が波にさらわれるように霧散していく。
「……なぜ、でしょうか」
レオンの絞り出すような声。自信に満ちていた「天才」の顔が、見たこともない不安に染まっていく。
「うん、それだよ。いい顔だ」
「……いい、とはどういう意味ですか。俺の魔術が、壊れているというのに!」
「今の君、ちゃんと『考え始めてる』顔をしてる」
少しだけ笑って、僕は手を軽く上げた。
「安心して。君の魔術、間違ってないよ。詠唱も、魔素の流れも、構築の手順も……ほぼ完璧だ。少なくとも、学生のレベルじゃない」
レオンの眉が動く。
「なら、なぜ発動しない!?」
「僕が、止めているからだよ」
沈黙。
数秒後、教室は爆発したようなざわめきに包まれた。
「止めてる……?」
「発動する前に? そんなこと、可能なのかよ!」
「可能だよ。さっき見せただろ?」
「……あれは、発動した後の炎を壊したのでしょう!」
レオンが食い下がる。必死な形相だ。
「うん。でもね、発動前でも後でも、理屈は同じなんだ」
僕はゆっくりと歩み寄り、レオンの目の前で立ち止まった。
「魔術ってさ、一瞬で出来上がるものじゃないだろ? 『構築』している『途中』が必ずある。……そうだよね?」
「……はい。多重の回路を組み上げ、臨界点まで魔素を……」
「その途中で、ちょっと触るんだ。――指先で、ここをね」
僕は空中に指を走らせる。
「それだけで、積み木は崩れる」
「……そんな」
レオンが歯を食いしばる。
「証明、していただけますか。……俺が、納得できるように」
「いいよ。もう一度」
レオンが深く、深く息を吸い込む。プライドを懸けた全力の集中。
「『荒ぶる火よ、我が意に応え、敵を焼け』! 『火球』!」
今度は、発動しかけた。熱風が僕の頬を撫で、赤い光が膨らみ始める。
「――『解析』」
瞬間、僕の視界には「完成間近の精密機械」のような術式が透過して見えていた。
エネルギーが循環し、一点に集束しようとする、その刹那の揺らぎ。
(そこだ)
「――『遮断』」
手元の銀の針を、構築の「要」に突き立てる。
直後、膨れ上がろうとしていた炎が、風に吹かれたロウソクのように、あっけなくかき消えた。
「……っ!」
レオンが息を呑み、力なく腕を下ろした。教室は、水を打ったように静まり返る。
「今のが、『発動しない理由』だよ」
「……そんな魔術、聞いたことがない……あり得ない……!」
レオンの声が震える。
「そうだろうね。だって、誰も教えてこなかったから」
僕は黒板に向かい、チョークを走らせる。複雑な構築図の一部を、強くなぞった。
「今の魔術界は、みんな『完成した形』しか見ていない。でも本当は、構築している最中が一番無防備なんだ。ここ。ここを指先でちょんと突くだけで、君たちの言う『神秘』はただの魔素の霧に還る」
教室の空気が、さらに一段階変わった。恐怖、そして、それ以上の熱烈な「理解」が追いつき始めている。
「……では」
隅の席で、リテラがノートを握りしめたまま立ち上がった。
「魔術とは常に、外部からの干渉で無効化される危険を孕んでいる……ということですか?」
「いい質問だ。答えは、半分正解かな」
僕は彼女に向かって少しだけ笑う。
「ちゃんと中身まで理解して、強固に構築された術式なら、そう簡単には崩せない。でも――『理解したつもり』の脆い構築なら、誰にでも壊せるよ。僕みたいな『劣等講師』にだってね」
自嘲気味に言うと、レオンがガクンと肩を落とした。
「……俺は、理解していたつもりでした」
「うん。君は優秀だよ、レオン君。でも、『つもり』と『出来ている』は違うんだ」
僕は少しだけトーンを落とし、優しく言葉を添えた。
「さっきの火球、いい魔術だった。だからこそ、僕はそこにある『不備』を指摘したんだ。……やっと、そこまで来たね」
レオンが、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、さっきまでの傲慢さは消え、代わりに飢えたような知識欲が宿っていた。
「……なにそれ」
窓際のクロエが、身を乗り出して呟く。
「めっちゃ面白いんだけど。ねえ、私の魔術も壊してよ、先生」
……困ったな、このクラス。
リテラは完全に自分の世界に入って計算を始めているし、レオンはリベンジの炎を燃やしている。
(……いいね。ちゃんと、届いてる)
「じゃあさ。次は、どうすれば『壊されない』魔術を組めるか……そこ、やろうか」
教室が、歓声に近いざわめきで満たされた。
ここからが、本当の『技術』の伝承だ。
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