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サバイバル•プラン  作者: Haru
--アナタハドノヨウニ、イキルオツモリデスカ?
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6/11

ケース6 仁義なき老女傑!人生物語

登場人物紹介

主人公:小泉ハル

ケアマネ歴17年。ボケもツッコミも一流の“ケア界の漫才師”。今日もまた、クセ強案件に巻き込まれる未来が見えている。

利用者:広末静

ガリガリの体に全身タトゥーというインパクト100点の老婆。口は悪いが、どこか憎めない“やさぐれ系レジェンド”。

家族 :長男・久

複雑な事情を抱え、母とは長年距離を置いている。でもどこかで気にしている気配が漂う“ツンデレ気味な息子”。

――お母さん、お母さんは愛情表現がうまくはなかったよね。私とお母さんて、どこが似てるかな。あんまり似てないような気がするけれど。



【私が大阪に生まれていたなら、今頃は口を大きく開けた、虎やライオンがプリントされたTシャツを、上品に着こなしていただろうな】

などと考えながら今日もまた、次に私が担当する方との出逢いの日です。

 

 八十三歳(女性) 要介護1  一人暮らし

 

 入院中の病室で面会です。仕切ってあるカーテンを開ける私。   

 

   シャッーーー。


     

 【……えっ?? ヤクザ??】 




 ガリガリの老婆の、シワシワの肌には全身、少し色褪せた模様がびっしり。

彼女は、小さく横たわっていました……。



【聞いてないよぉー! 怖いんですけどっ!】


 広末静さんとの出逢いは、これまでのどの出逢いよりも強烈でした。彼女の人生ににいったい何があって、こうなったのか凡人の私には想像もつきません。静さんは腰椎圧迫骨折で2か月ほどの入院期間を経て、一人住まいの自宅に戻りました。




 ガタついた玄関の引き戸をこじ開けると、静さんは座って煙草をふかしています。部屋の中はがらんとしていてテレビと、テーブルしかありません。隙間が多いのか、今時ハエが自由に出入りしています。

「静さん、入院中に相談したヘルパーさんは来週から入れるように調整しましたよ」

「はぁ?何が?わしは頼んだ覚えはないよ」


 本人は小さくてシワシワですが、ドスの効いた物言いです。『やさぐれた婆さん』といったところです。静さんは腰の状態はかなり回復しましたが、一人で生活するには不便が多い、と感じるご自宅に住んでいます。移動に便利なレンタル手すりも、設置させてはくれません。何を提案しても「いらん、いらん」のオンパレードです。


 また振り出しに戻って、説明・説得の必要があります。 静さんは以前はどのような仕事をしていたのか、家族はいるのかいないのかさえ、まだ教えてくれません。この時は、この人と信頼関係を築けるのか謎な状態でした。静さんとあ~だこ~だと介護保険サービスの話をしていると、一人の男性が訪ねてきました。お孫さんでしょうか?


【訪ねて来る人がいるんだな】


 静さんはその男性と一緒に庭の方へそそくさと移動していきました。その姿から私に『見られたくない感』を醸し出していたため、私は陰からひそひそ話を聞くことにしました。懐かしの『家政婦は見た』状態です。静さんは男性に白い袋を渡しています。よく聞き取れない中で、

「いつもの……マユゲ……」 

とだけ、聴き取れました。


【なになに? マユゲってなに?】


 私の心拍数は爆上がりしていました。なぜかって、私の解釈ではアレは完全に『ブツ』だからです。『マユゲ』という暗号を使った、『ヤク』の受け渡しに違いない。


 思い込みが激しい私の中ではすでに、静さんに対する物語が出来上がりつつあります。私はすぐにスマホで『マユゲ、暗号』などとググりますが、眉毛は眉毛でしかありません。検索してでてくるくらいなら、暗号にはなりませんから当然です。


 この一件から、静さんが何者なのか心底怖くなりました。膝から下以外は全身刺青が施され、退院後さっそく若い衆に『ヤク』を売りつける。私の妄想の中では売人に決定していました。


 刺青というと、『遠山の金さん』くらいが丁度良いのです。とんでもない人を担当してしまった。

恨みますよソーシャルワーカーさん、巻き込まれるのはご免です。

 


 何とかヘルパーさんが訪問することにはOKがでたため、週に三回はヘルパーさんから情報が入ってきます。

・時折、若い男性がやってくる。静さんは「知人」とだけ発言。

・隣の部屋に宗教の大きな祭壇がある。お参りをしているところは見たことがないが、LEDろうそくを怪しげにいつも灯している。火事の心配がないから良し。

・まともにご飯を食べていないため、買ってきた品は腐らしてしまい、捨てることが多い。


 入院前はどのように生活し、どのように生きてきたのか、多くを語らない静さんですから勝手に妄想し、今後を見ていくしかありません。静さんは小柄ですが、態度は大きく、どこか威厳のようなものを感じる、あまり見たことのない種類の婆さんでした。


 ある日静さんのガラケーが繋がらなくなりました。自宅へ行くと入院中に支払いが滞っていたようで、督促状が届いていました。私は静さんに代わって携帯会社へ電話をして、すぐに支払いを済ませ、電話を使えるように手配しました。この時から静さんは少しずつですが、ぽつりぽつりと身の上話をするようになりました。



 過去に人に騙されて、土地を取られたこと、弁護人をたてて裁判で戦ったこと。夜の商売をしていたこと、息子が一人いること。息子さんとは一切、連絡をとっていないと言います。電話番号はわかっているけれど、数十年声も聞いていない。若い頃はそれで良かったけれど、老いてきた自分のことを考えると会いたい、と。私も息子がいるのでわかります。


 息子に数十年も会っていないなんて苦行そのものです。どんな事情があっても命が尽きる前に、できれば元気なうちに会いたいことでしょう。


 それからも時折、あの『若い衆』がやってきます。静さんに聞いても『知人』としか言いません。何の取引をしているのやら、謎は解けません、私の妄想は膨らむばかりです。


 そんな静さんはご飯もろくに食べないため、体力低下が目立ってきました。いつも大きな黒飴を口いっぱいに頬張っています。訪問ヘルパーが言います。

「静さん、ご飯食べないと足が弱りますよ」

「いらん心配しなくても、自分のことはよくわかってるよ、放っておきな」




 そんな静さんに、新たに乳がんが見つかりました。年齢も年齢なので進行はそれほど早くなく、治療にも体力がいるため、静さんは積極的な治療はしないことにしました。ますます息子さんに会いたい気持ちが募ります。この頃には私と静さんとの関係性は変わりつつありました。静さんは口数は少ないですが、どこか1本、芯が通った部分を感じる婆さんでした。


 とうとう息子さんの連絡先を教えてくれた日、私はこの先のことを考え、電話することを許可してほしいと、お願いしました。静さんは不安そうに、渋々OKをくれました。


「介護保険の担当をしている小泉と申します。」

長男の久さんは、知らない私からの連絡に戸惑いながらも話を聞いてくれました。 私は久さんに、静さんの現在の状況と、今後の懸念点について伝えました。そして1度、会いにきてほしいと。


「俺はあいつを親だとは思っていない、どうなってもいい」

 最初こそ完全否定の久さんでしたが、静さんの病状は今後どうなるかわからないこと、今会わなければ手遅れになるかもしれないこと、静さんは反省していることを少し大袈裟に伝えました。


 私は精神疾患の元夫を病院へ連れて行こうと説得するのに、何度も頭を下げたことを想い出していました。


 説得するのは得意な方だと思っていますから、何とか久さんに頼み込みました。すると、久さんは何かの保証人などにはならないけど、一度会いに行く、と言ってくださいました。

晴天の霹靂! 凄い進歩ですよ、静さん!



 ほどなくして久さんと静さんは自宅で会うことができました。目元がそっくりの、どこから見ても親子だとわかる二人。あの静さんが信じられないくらい弱々しい(ふり?)をしていて驚きました。

静さんの細い目からは、次から次と大粒の涙がこぼれ落ちます。


「ごめんね、ごめんね、来てくれてありがとう。また会えるとは思っていなかったよ」

膝から崩れ落ちるように床に手を突く静さんに、久さんは

「許す事はできないし、面倒は見ないから」


 感動の再会には、ハグがつきものですが、現実はそうでもないようです。しかし、こんなに根が深い親子関係って、いったい何があったというのでしょう。

私はこんな風には絶対になりたくないと思う出来事でした。


 息子に会えた静さんはますます、私を信頼してくれるようになりました。

「生きているうちに息子に会えるなんて、思ってもみなかった。アンタのおかげだよ」

私の提案を聞き入れてくれることも多くなった頃、サービス付高齢者住宅への入居を考えるようになりました。ですが入居には大きな問題がありました。


 ひとつは喫煙です。そしてこの一軒家の処分など、問題は多いのです。息子の久さんはあの調子では、手を貸してくれないことは明確です。すると静さんはこれまで全く話にでなかった『甥っ子』の存在を教えてくれたのです。その甥っ子さんは市内の警察署に勤めている方でした。


【そんな秘密兵器がいるなら、早く教えろよな】


 とは、本人には言えませんが。早速、静さんのお許しをいただき、甥っ子さんへ連絡を取りました。これが本当に『奇跡の救世主』で、力を貸して下さることになったのです。しかもなんと久さんとも連絡を取り合っているというではないですか。親の知らないところで、いとこ同士は繋がっていたのですね。なんとも素晴らしい!


 甥っ子さんは本当に素晴らしい人で、自宅処分に必要な、静さんの兄弟たちの書類の準備や、各関係機関への提出やらを担って下さり、常識人のスーパーマンのような方でした。


 私がサービス付高齢者住宅を探してくると、身元保証人になってくれ、速やかに入居ができることになりました。実の息子がいるのに、甥っ子さんがここまで力を貸してくれるとは、どんな善行を静さんはしてきたのか私は不思議でなりません。そのギャップが静さんの魅力なのかしら?


 甥っ子さんの職場を訪ねる機会があった時に静さんについて聞いてみました。静さんは組長のいわゆる愛人で、夜の商売を長年していたそうです。息子をひとりで育てながら暮らすも、男性関係が派手だった静さんを、久さんは若い頃から嫌っていたと。


 財産として購入した土地をだまし取られた時には、長い裁判をし勝訴したものの費用がかさみ、結果残るものがほとんどなかったとか。精神的にも辛い時期が続き、いつしか宗教に陶酔していった。献金額もかなりのもので、そういった経緯もあり久さんは離れて行ったとのことでした。久さんが離れていくのも、仕方がないエピソードではあります。


 しかし、刺青で武装する静さんにも、人間の脆さや儚さが垣間見えます。時に、孤独や裏切りに心が耐えられなくなった時期があったのでしょう。 

私は絶対にそんな風にはならないように、気を付けようと身構えます。


 この仕事は反面教師が多く、私の人生に多くの学びと戒めをもたらしているように思えます。だからこそ、こんな人間に出来上がったのかもしれません。


 それにしても静さんと甥っ子さん。光と影のような対照的な立ち位置ですね。職業からして、ドラマでもない設定です。甥っ子さんでも、あのヤクの売人であった男性の正体はわからずじまいでした。




 静さんはサービス付高齢者住宅に入居して二週間ほどで、すっかり馴染んでしまいました。自由奔放に自分を隠さずに、人に縛られずに生きてきた女性です。実の息子には愛想をつかされても、自分を貫き通した静さん。


 歳を重ねたからここまで変わったのか、息子に許しを請うことができたから素直になれたのか、真相はわかりませんが、人はいくつになっても『変わろう』という気持ちがあれば、変われるものなのですね。


 一番の謎だけは解けないままですが。


【あの売人は、いったい誰なんだよ~よぉ~よぉ~……】


 私は白か黒か、はっきりさせたい性格です。あの謎の売人は『愛人だった男の孫で、静さんをゆすっていた』ということにしておこう。その方がおもしろい!



【あ~、すっきりしない】



 *


 私はモニタリングで静さんの部屋を訪問します。

「静さん、何か不便はありませんか?」

「あ~、煙草も吸えない。」

苦虫を潰したような表情の静さんですが、イライラしている様子はありません。

 むしろ……。


「ひとりは嫌だね、ココ(・・)でいい、ココ(・・)がいい。家がいちばんいいね!!」




 *


 正面玄関には久さんが、飴玉を持って面会にきたようですよ。



                            

――お母さん、親子ってなんなんだろ。

私みたいに十八年しか一緒に暮らせない人もいるのにね。結局みんな、無いものねだりなんだよね。

【ハルの人間日記 -スピンオフ-


匠の技

20✖✖年 5月✖✖日


明日は(タイラ)の遠足だ

弁当を考える。

キャラ弁もいいが、新鮮味がない

秀兄がいつか言っていた

あたしが生まれた頃

逆子だったため、お母さんは

少し遠方の病院に入院していた。

その間、ばあちゃんが来てくれたらしい。

しかしなぜか、秀兄の遠足弁当は

お父さんが作った。


心配しながら開けた弁当は

真っ白で

ご飯だけが入っていた。

蓋をパカパカさせながら食べ進めると

なんと底からビチャビチャした

フルーツポンチ

(ゼン)こどもの好物だ


嬉しかったかどうかは知らんが

実に斬新極まりない技巧だ。

さすが我が父

あんた、男の中のオトコだねぇ

凡人には出せない魅力のある男

うん、うん

明日の弁当はそれで

きまりだ!

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