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50.入学後、初めての休日の一日(中編一)

 学生寮を出てから約一時間。

 私たちはようやく教会へと到着した。


 なぜ、この学校はここまで広いのだろうか? もう少しコンパクトに作ればいいのに。


 長い移動時間で存分に体力を奪われたのを感じながら、考える。


 そもそも、この山自体が学校の敷地面積とイコールで本校舎が頂上、その近くに学生寮、ふもとに商店街、あとは山の中に施設が点在……この学校の状態を表すならまさしくそんなところだろう。


 そんな学校施設内において、様々な施設が集中して設置されているこの商店街はある意味で異様な場所だといえるだろう。


 歩いてくる途中では、話に聞いていた施設のほかにカフェやレストラン、宿屋まで存在しており、この学校が一つの街として機能するという認識をさらに加速させる。


 サントル曰く、学校内にこういった施設がある学校というのは、ほかにも存在するらしいが、規模だけでいえば帝都魔法学校のそれが最大らしい。当然だろう。これだけの面積を誇る商店街があるというのに、それを上回る規模の施設を持つ学校があると聞くと、少し考え物だ。


 学生寮の大きさからして、生徒数はそれなりに多いだろうし、それぞれの需要にこたえようとして、この商店街が形成されていったのだろうが、いくらなんでも大きすぎるのではないだろうか?


「さて、さっそく中に入りましょうか」


 そんな私に思考はメリーの一言でいったん中断させられる。


 気が付けば、メリーはすでに協会の入り口の扉に手をかけていて、私たちに一緒に中に入るようにと促しているように見える。


「そうですね。入りましょうか」


 まるでご褒美を前にした犬のように期待に満ち溢れた目をしたメリーの姿を見て、サントルが笑いながら扉に手をかける。

 そんな二人の手によって扉が開け放たれると、その先にはある主幻想的な光景が広がっていた。


 天井のステンドグラスから光が差し込む空間には、正面にある銅像の方を向かうようにして、たくさんの机といすが並べられ、壁を見れば神様や天使が描かれた壁画がある。


 天井には神様の世界を現しているであろう天井画が一面に描かれていて、扉をくぐった瞬間完全に別世界に来てしまったような間隔に陥る。


「……すごい」


 イメージしていたものよりも何倍も美しい光景に見とれて、思わずそんな言葉が漏れる。


「はい。噂には聞いていましたが、ここの教会は素晴らしいですね。ほら、せっかくですから前の方に座って聖歌の合唱を見ましょうか」

「そうね」


 幸いにも聖歌の合唱はこれからのようで前の方ではシスターの恰好をした生徒たちが準備を進めている。

 この空間の中にいると、修道服を着ているメリーもまた合唱に来たシスターだと勘違いされそうだが、よく見るとデザインが違うので彼女が合唱隊に引き込まれるなどということはないだろう。


 朝早い時間ということもあってか、前に集まっているシスターたち以外は人の影はあまりなく、私たちはあっさりと最前列に座ることができる。


 そのあと、何人かの生徒が教会に入ってくるが、席が埋まることはなく、周りを見れば意外と空席が目立つ状況だ。


 そんな状況の中で、聖歌隊を取りまとめているとみられる男子生徒が前に出てきて一礼をする。


「……皆様、本日は足を運んでいただきましてありがとうございます。本日はこの教会の主神である光の神、ルーチェに捧げる讃美歌を合唱いたします。皆様もぜひともご参加ください」


 その言葉のあとに一礼をすると、彼はオルガンの前に座る女子生徒に合図をする。

 すると、オルガンによる伴奏が始まり、それに続いて合唱隊が透き通るような声で合唱を始める。


 その声の美しさに私は息をするのを忘れるほど聞き入ってしまう。

 チラリと横を見てみれば、メリーは顔に前で手を組み、目をつぶって小さな声でなにかを言っている。


 小さな声なのでその内容まではわからないが、おそらく一緒に聖歌を歌っているのだろう。


 来たときこそ、移動時間のせいで時間を無駄にしたなどと考えていたが、実際にこうして教会を訪れて、聖歌を聞いていると、それも無駄ではなかったんだなと思えてくる。


「……今日は教会に来ていただきましてありがとうございました。新入生の方もいますので……」


 聖歌に聞き入っているうちに時間はあっという間に過ぎてしまい、気が付けば最後のあいさつと教会の紹介が始まっていた。


 それによると、この教会は維持管理からこういった聖歌の合唱まですべて生徒の手によって行われているらしく、それを行っているのが聖歌隊部という部活らしい。


 簡単に聖歌隊部の活動について紹介されたあと、前にたっていた男子生徒が改めてお礼を言い、頭を下げる。そこまで見届けた私たちは商店街に戻るよりも前に少し教会の中を歩くことにした。


「ところで、メリーさんは部活動に参加できるようになったら聖歌隊部を希望するんですか?」


 席を立つなり、サントルがメリーに質問をする。


「はい。私、ルーチェ様が大好きでして。ルーチェ様の教会があることは、この学校に入学して良かったことのひとつですね。なので、是非とも聖歌隊に加わりたいですね」

「……そうなんですね。いいですね。好きなことがあって」

「はい」


 どうやら、メリーは聖歌隊部を希望するらしい。部活動がいつのタイミングから始まるのか(そもそも、存在を知ったのが今であるが……)わからないが、そうなってくると私も入る部活動について、考えなければならない時期が来るのだろうか?


「……ルーチェ様ね……どんな神様なのかしら」


 部活動のことを考える一方で、私の中の興味はもう一つの方に向きつつある。

 会話をしながらたどり着いた壁画の前には天使と共にブロンズの髪が目を引く女性が描かれている。


「ルーチェ様は光を司る神様で、この世界にありとあらゆる光をもたらしてくれている。とされています」


 私が口にした疑問に対して、メリーが解説を始める。


「……光と一言で言っても、それは様々ですが、例えば人が亡くなったときにその頭上に光を降ろして、その人を天に導く何て言われています。それに、これはあまり知られていないのですが、ルーチェ様は輪廻転生を司る神様でもあるそうですよ。私たちの目の前にある壁画は魂を一旦天に導き、再び新しい命として現世に下ろしている場面ですね」

「輪廻転生ね……」


 輪廻転生を司る神様。その単語は私の中で大きなインパクトがある言葉だった。

 横でメリーが輪廻転生について説明しているが、それは全く頭に入ってこない。ただただ、目の前の壁画に釘付けになっていた。


 ルーチェという神様がどこかに存在していて、輪廻転生を司っているのなら、私が前世の記憶を持っている理由について教えてくれたりするのだろうか?


「……会ってみたいな。ルーチェ様に」


 神様と会う。本当に存在するのかわからない存在と会うだなんてそんなことは無理だろう。しかし、それでも、私は前世の記憶が残っている理由を教えてくれそうな彼女に会ってみたい。そんな感情が自分の中で生まれる。


「会ってみたい。ですか……面白いことを言いますね」


 私がつぶやいた一言で話を聞いていないと察したのか、メリーは説明を中断して私の言葉に返答をする。


「ターちゃん。神様に会えるのは一部の特別な人だけですから、私たちには難しいと思いますよ」

「……そうだろうね。神様だものね」


 面白いと称するメリーに対して、メニーはそれは難しいと私を諭す。


 難しい。ということは不可能ではない。ということなのだろう。あとで、その辺りの条件について調べてみてもいいかもしれない。


 そんな思いを胸に私は壁画を見つめていた。

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