51.入学後、初めての休日の一日(中編二)
しばらくの間、教会に滞在していた私たちであったが、本来の目的であるショッピングをするために教会を出て商店街に戻っていた。
「……さて、どこに行こうか?」
私が問いかけると、サントルが元気よく手を上げる。
「服屋! 服屋がいいです!」
「それじゃあ服屋にしようか」
「はい!」
意見が通ってうれしいのか、サントルは満面の笑みを浮かべて返事をする。
「服屋ですか。心が踊りますね」
そして、意外なところからも歓喜の声が聞こえてくる。
「メリーも服屋に行って服を選んだりするの?」
「……はい。普段はこういった格好をしていますけれど、オシャレに興味がない。というわけではないんですよ」
意外な事実だ。メリーはそういうものに興味がないと思っていた。しかし、よくよく考えてみると、彼女は私と同じ年の女の子であり、そういったオシャレに興味があるということはある種、自然なことなのかもしれない。
「服屋はこっちにあったはずです。着いてきてください」
気づけば、一番ショッピングを楽しみにしていたであろうサントルが前に立ち、私たちを誘導する。その様子からして、教会に行くまでの間に服屋の位置を把握していたのかもしれない。
「楽しそうですね。サンちゃん」
サントルの斜め後ろを歩くメニーが私に声をかける。
「そうね。相当楽しみにしてたのかしら」
今のサントルもまた、学校では見られないような姿をしていて、今にも跳び跳ねようなぐらい楽しそうに歩いている。
そんな彼女の背中を見つめて、私は羨ましいな。などと思ってしまう。
メニーにも言えることかもしれないが、彼女たちは普通の子供として、普通に楽しみ、普通に学び、普通に平穏な日々を過ごしている。その一方で私はどうだろうか? 前世の記憶を持ち、その記憶とこの世界を比較し、前世の記憶を待つ意味を探している。周りから見て、私はどのような子供に見えているのだろうか?
大人びている? 箱入り娘? 異様な雰囲気? いったいどうなのだろうか?
聞いてみてもいいのだろうが、聞いたところで素直な答えが返ってくる保証はない。そこを確実にしたいのなら、洗脳の魔法を使って素直に話させるぐらいしかないだろう。もっとも、そんなては使うつもりはないし、何を言われるか怖いので、そんなことはしないのだが……
「……着きましたよ」
サントルの声で私は現実に引き戻される。どうやら、考え込んでいるうちに服屋の前に到着したようだ。
「まったく、ターちゃんったら、私たちが立ち止まったのにそのまま行こうとするんですから……ちゃんと周りを見てくださいね」
「ごめんごめん。次からは気を付けるよ」
サントルからの声かけがなかったら服屋を通りすぎて、どこかに行ってしまうところだった。
立ち止まった私はサントルが向いている方に視線を向ける。
シンプルに服屋とだけ書かれた木製の看板が下げてあるその店舗の入り口は、この世界にしては珍しくガラス張りになっていて、中の様子がよく見えるようになっていた。
「いい感じのお店ね」
「はい。とっても素敵です」
この場所で服を買うのは生徒や教師ぐらいだと思うのだが、それでも店先をしっかりと作っている辺り、ちゃんとしたこだわりを感じる。
「入りましょうか」
「うん」
店先をしっかりと観察したあと、サントルを先頭にして、私たちはガラスの扉をあける。
「いらっしゃいませー」
ガラスの扉の上部に取り付けられた鐘がカランカランと軽い音を立てて鳴ると同時に、店の奥のカウンターの前においてある椅子に腰かけている少女から声がかかる。
店員だと思われる少女は笑顔を浮かべて私たちの方へと寄ってくる。
「……見かけない顔ね。新入生かしら? 私はカシミア。12年生でこの店の店主よ」
「初めまして、新入生のターシャです」
「メニーです」
「同じく新入生のサントルです」
「同じくメリーです。よろしくお願いします」
私たちがそれぞれ自己紹介をすると、カシミアは小さく笑みを浮かべる。
「ターシャちゃんにメニーちゃん、サントルちゃんとメリーちゃんね。みんなよろしく。あぁいいわねー久しぶりの御新規さんがこんなにかわいいお客様だなんて……私、張り切っちゃうわ」
「……ありがとうございます」
それにしてもだ。彼女は私たちに対して、12年生だと名乗った。ということは、彼女もまた、この店の店主であると同時にこの学校の生徒だということだろう。服屋だけが特殊ということは考えづらいので、おそらく商店街の他の店も似たような調子なのかもしれない。
「……さて、あなたたちはどんな服が好きなのかしら? せっかくだからお姉ちゃんがコーディネートしてあげる……例えば、そこのあなた。ターシャちゃん。ターシャちゃんはどんな服が好きかしら?」
いきなりの指名に私は戸惑ってしまう。服の好みなど考えたことなかったからだ。
屋敷にいるときはメイドたちが勝手にフリフリのドレスを持ってきたし、屋敷を出てからは旅で支障にならないようにと、サニーが用意したいくつかの動きやすい服を日替わりで着ているだけだったからだ。
「……うーん」
「そうだ。このスカートとかどうかしら?」
そこまで踏まえて自分の服の好みについて考えだしたころには、緑を基調としたタータンチェックのスカートが目の前に現れる。
「あの……スカートはあまり……」
「あら、ターちゃんなら似合うと思いますよ。せっかくですから、こちらの白いブラウスと合わせてみてはどうですか?」
できればスカートは履きたくない。そう考えて断ろうとしたところにメニーが長袖の白いブラウスを持ってくる。
「いや……だからそれは……」
「かわいいですね。ターシャ様ならきっと似合いますよ。更衣室はどこですか?」
屋敷出来ていたドレスもそうだが、かわいい服というのはどうも抵抗がある。しかし、メニーに手を引かれ、それと同時にサントルに背中を押されて私は店の奥にある更衣室へと連行されていく。
「ちょっと!」
「大丈夫です。私たちがきっちりとターシャ様をかわいく仕上げて見せます」
「……クスクス。普段、質素な格好しかしていないターシャさんのかわいい姿ですか。ぜひともみたいですね」
私はただのウインドウショッピングをするだけで、そのほかのメンバーが買い物をするという話だったはずが、いつの間にか私の着せ替え大会が始まろうとしていた。
このままではいろいろとまずい。どんな格好をさせられるかわかったものではない。
最悪の最悪、お金がないので買うことになるということはないだろうが、それでも着せ替え人形にされるのはごめんである。
しかし、非力な私には女の子三人を押しのけて逃げるような力もなく、この出来事が起こったきっかけである店主のカシミアもニコニコとほほえましそうにその風景を見守っているだけである。
「私はいいから。ほら、みんなでそれぞれ選ぼう。ね?」
「駄目です。今、私はかわいい恰好をしたターちゃんを見たいんです」
私がそれぞれ事由に服を選ぼうと提案しても、メニーが強い口調でそれを訂正する。
そうしている間にも更衣室の前に到着し、私はメニーに手を引かれてそのまま更衣室に入っていく。
「ほら、まずは上から着替えますよ」
結果的に更衣室に入ってしまった時点で私に勝ち目はなく、そのあとは次から次へと持ってこられる服に着替えさせられ、私は完全に着せ替え人形とかしてしまったのであった。
なお、一番似合っていたのは最初に来た白いブラウスと緑のスカートの組み合わせた一番似合っていたそうだ。




