49.入学後、初めての休日の一日(前編)
ついに迎えた学校生活初の休日。
この学校では7日ある一週間のうち2日が休日と定められていて、その日は授業が行われないとされている。もっとも、特別な学校行事などがある場合は別だとのことだが……
ともかく、今日が休日であり、先日のサントルたちとの約束もあるので、私たちはいつもよりも早起きをして売店へと向かっていた。
「……やっぱり、この時間に起きると眠いですね……」
「まぁ確かにね」
学校の始業は9時で起きるのがその1時間半ぐらい前の7時半ぐらいなのでいつもだったらまだ布団の中で眠っているような時間だ。
そうなれば、眠気が来るのも当然で、私は思わずあくびをしてしまう。
「それにしても、こんなに早起きしてまでメリーさんが見たいものって何なのでしょうか?」
「さぁ? 私はあんまり教会のこと知らないから……行ってみてからのお楽しみっていうところかしらね?」
実際問題、私はこちらの世界の宗教についてほとんど知識がない。
家で何か宗教をやっていたわけではないし、そういう話を聞いたこともないからだ。
具体的にはメリーが教会のシスターにあこがれているという話をした際に初めてこちらの世界にも協会があると知ったぐらいの勢いだ。
そのため、私としては朝早く起きることに不満を持ちつつも、その行動によってどういったものが見られるのかという期待を少なからず持っている。
「遅いですよ。二人とも」
売店に到着すると、すでにサントルとメリーが待っていて、一番この時を待っていたであろうメリーから声がかかる。
「ごめんね……待たせちゃった?」
「いえ、私は先ほど来たのですが……メリーさんはいつから?」
「私は30分前には来ていましたよ。さて、結構ぎりぎりの時間なのでそろそろ行きましょうか」
待ちきれない。そんな感情を前面に押し出しているメリーを先頭にして、私たちは商店街へ向けて出発する。
「山を下りるのは入学以来ですね。帰りの体力もちゃんと考えておかないときつそうです」
「それもそうだね。にしても、なんで学生寮と商店街がこんなに離れているのかな? もう少し近くてもいいのに……」
「それは、学校の周りに学習用の施設や実験用の施設が点在しているから、それと商店街を離したかったんじゃないですか?」
「なるほど。確かにそういわれれば納得できるかも」
会話をしながら思うのだが、サントルは妙にこの学校の事情に詳しい気がする。
一応、学校についての説明は学生寮の部屋に置いてあった冊子にある程度書いてあったのだから、別におかしな話ではないのかもしれないが、あの冊子に書かれている情報は膨大で私やメニーはほとんど読んでいない。逆に言えば、あの冊子さえ読み込めばこれほどまでに学校について詳しくなれるということなのだろうか?
そう考えると、なかなかすごい冊子なのだが、私たちは学校に到着してから一週間と少しの期間しか過ごしていない。なのにあの冊子を読み切るだけではなく、その内容までちゃんと覚えているのだから彼女の記憶力というのは素晴らしいものがあるといえるだろう。
「学習用の施設とか実験連って具体的には何があるの?」
「……うーん。私もそこまでは存じ上げていないですね。もっとも、魔法の学習や実験に使われる施設だということは確かだと思いますがけれど……」
そういいながら、彼女はあいまいな笑みを浮かべる。
どうやら、そういった施設の存在は明記されつつも、その内容までは書かれていなかったのだろう。
「将来は私たちもそういうところで勉強したり、実験をしたりするのかしら?」
「可能性はありますね。すべての施設に立ち入るかどうかはわかりませんが、卒業までに多くの施設を使うことになると思いますよ」
「まぁ確かに学校だものね。使わない施設の方が少ないか……」
大学のように研究を目的にした機関であったり、どこかの学年でコースが分かれてという話なら別だが、基本的にはほとんどの施設に立ち入れるようになるのだろう。もっとも、私たちがこの学校において13年という長い年月をかけてどのようなことを学ぶのかという点について、ちゃんと把握できていなかったりするのだが……
その後も雑談を交わしながら山を下りていくと、やがて私たちはふもとの商店街に到達する。
昼間であれば、活気にあふれているであろう商店街も時間が時間だけあって、人の姿はほとんどなく、一部の店を除いてまだ開店していない状態だ。
そんな人気の少ない商店街の中を私たちは四人並んで歩いていく。
「ねぇメリー。教会はどのあたりにあるの?」
目的地まであとのどのくらいあるだろうか? それを把握するという意味も込めて、私はメリーに尋ねる。
「そうですね。商店街の一番奥だと聞いています」
「……商店街の一番奥ねぇ……」
そもそも、商店街の大きさを把握していないので、一番奥といわれてもいまいち場所がぴんと来ない。だが、そこに至るまでの距離がそれなりにあることは何となく把握することができた。
「商店街の奥といいますと、もしかしてあれでしょうか?」
私が商店街の大きさがどの程度かと考え始めた一方で、サントルが向こうの方にある大きな建物を指さす。
「あぁ確かに教会っていう感じの見た目をしていますね」
メニーの言葉とともにサントルが指さした方角を見てみると、確かに小さな商店が並ぶ商店街の中でひときわ大きな建物が建っている。
石造りで作られたその建物の上部にはステンドグラスがはめ込まれていて、そのステンドグラスには何かのイラストが描かれている。おそらく、教会であるからには神様がどうとかそういう関係なのだろうが、その内容の詳細まではここからはわからない。
「……結構商店街って大きいのね」
「そうですね。学生のためだけの施設とは思えない大きさです」
教会の位置から商店街の大きさをなんとなく把握した私とメニーは驚きの声を上げる。
商店街というからにはそれなりに大きさがあるだろうと予想はしていたのだが、これは予想外だ。
「……あそこまで行くと徒歩15分ぐらいでしょうか?」
「それぐらいでつけばいいけれど……」
目測での時間というのは意外といい加減だ。思っているほど時間がかからない場合もあるし、思っていた以上にかかることもある。そんなことは歩いてみないとわからない。
「メリーはわからないの? 大体の時間」
「そうですね。商店街の入り口から徒歩20分だと入学の冊子には書いてありました」
「……だそうよ」
その徒歩20分というのがどのような基準で測定されているか知らないが、私たち子どもが歩けば、それ以上に時間がかかる可能性がある。きっと、メリーもそれを見越して計画を立てているのだろうが、こうも距離があるとショッピング以前に教会へ行くだけで疲れてしまうのではないだろうかと不安になってくる。
「そういえば、早起きしてまでメリーさんが見たかったものって何なのですか?」
「あぁそれは……」
ここにきて、サントルが確信をつくような質問をぶつける。
私としても気になっていたところなので、私も、そしてメニーのその回答に耳を傾ける。
「……教会では毎朝、シスターたちが聖歌の合唱を行うんですよ。私、それが聞いてみたくてたまらなくて。まぁシスターといっても、全員この学校の学生たちがそういう感じの恰好をしているだけの話なんですけれど」
「そうなんですね」
どうやら、教会とは言えども学校内にあるの施設なので学校関係者以外は入れないらしい。
ここまで徹底していると、逆になんで学校関係者以外を入れたがらないのか気になってくるが、そのあたりについてはそのうちわかることだろうし、もしかしたら、こちらの世界においては常識かもしれないから、あえて疑問としてぶつけるようなことはしない。
私たちは、そのあとも雑談を交わしながらゆっくりと歩き、教会の方へと歩いていった。




