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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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91:獣人の違和感

朝靄が静かに森の縁を這い、村の活気が本格的に動き出す直前の時間。

狼系の獣人ガルムは、仲間の獣人たちと共に、所在なげに立ち尽くしていた。


耳がピクピクと微かな音を拾い、鼻が風に乗る無数の匂いを嗅ぎ分ける。しかし、その卓越した感覚をぶつけるべき「標的」が、今のこの村には見当たらなかった。


「……やることがねえ」


ガルムが吐き捨てるように呟くと、周囲の獣人たちの間に重苦しい沈黙が広がった。

村に来てから数日。畑に行けばエルフの繊細な魔力操作に気圧され、建築現場ではドワーフの緻密な設計に口を出す隙もない。力仕事ですら、人族が道具を使って効率よくこなしていく。


「俺たちは……戦うことしか知らねえ。獲物を殺すか、敵を屠るか。それ以外に、ここに居場所はねえのかよ」


その言葉は、誇り高い戦士ゆえの孤独だった。

平和な村。回る仕組み。そこでは「戦うだけの力」は、時として持て余されるガラクタのように感じられた。


「おーっと! 今朝の森は、随分と寂しいオーラを放ってる連中がいるじゃないか! 俺の鑑定眼にゃ、お前さんらの尻尾が元なくだらんと垂れてるのが丸見えだぜ!」


カイゼルが広場から軽快なステップで現れた。いつものように底抜けに明るい声。

だが、隣に立つエルダの目は、獲物を見定める冷徹な光を宿している。


「カイゼル、こいつらは使い方を間違えられている。……宝の持ち腐れだ」


「ははっ! 違いないぜ、軍曹殿! 宝ってのは磨いてこそ光る。――よお、ガルム! 仕事がねえって顔してるが、お前らのその『牙』、もっと最高にゴキゲンな使い方があるんだが……興味あるかい?」


### 1:野性のスペックを「言語化」する

ガルムが鋭い視線でカイゼルを射抜く。

「……あるなら言え。俺たちは愛想を振りまきに来たんじゃない、生きるために来たんだ」


「いいぜ、その目! ――まずは森へ入るぞ。お前らの本当の『価値』を、俺が直々に鑑定してやる!」


カイゼルは獣人たちを引き連れ、村の外周の森へと足を踏み入れた。

木々の間を進みながら、カイゼルは何も言わず、ただ彼らの動きを観察する。

枝一つ踏み鳴らさない軽やかな足取り。風の流れを読み、無意識に死角を消す陣形。


「……気づいたか、ガルム? 人族が百人かかっても真似できねえ、お前らの『一つ目の価値』だ。――隠密サイレント能力。お前らは歩くだけで、最強の斥候スカウトなんだよ」


さらに奥へ。ガルムが急に足を止め、耳を動かした。

「……いる。風上、距離三十。魔物の匂いだ」


エルダが頷く。人族なら、もっと近づかなければ気づけない距離だ。


「二つ目。――超感覚ハイ・センス。お前らは立ってるだけで、村の『レーダー』になれる。……三つ目は、言うまでもねえな。狩猟、つまり制圧能力だ。――やれ!」


カイゼルの指示が飛ぶ。ガルムたちが弾かれたように動いた。

速い。一瞬で距離を詰め、逃げる暇も与えず獲物を仕留める。

「ははっ! 無駄がねえ! 素晴らしいパフォーマンスだぜ、野郎ども!」


### 2:戦う力を「守る仕組み」へ

血を拭うガルムに、カイゼルは地図を広げて見せた。

「いいか、戦うってのは剣を振るうことだけじゃねえ。お前らの力は、そのまま村の『神経網』になるんだ!」


カイゼルが指を折って、役割を高速で割り振っていく。

「見張りに立て! 敵が接近する前に、お前らの鼻で察知して村に知らせるんだ。狩猟班を組んで、食料を安定供給しろ。そして、森の中に安全な交易ルートを確保する……。お前らがいないと、この村の血管は一瞬で詰まっちまうんだぜ!」


エルダが一歩前に出る。

「お前らは、突っ込むだけの兵ではない。……この村の『防衛線の目』だ。お前らが瞬きをすれば、村が死ぬ。……その責任、引き受けられるか?」


ガルムの目が、戸惑いから確信へと変わった。

「……戦いじゃない、守るための『目』……。……いいだろう。やってやる」


### 3:実戦――仕組みの証明

数刻後。村の外縁、配置についたガルムが、ピクリと鼻を動かした。

「……来る。東、距離百。魔物の集団だ」


エルダが即座に鐘を鳴らさせる。

「迎撃準備! 東だ!」


村人たちがバレット銃を構え、陣形を組む。

魔物が姿を現した時には、すでに弾丸の雨が待ち構えていた。

獣人たちは最前線には出ない。ガルムの指示が、的確に村人たちの射線を誘導する。

「右だ! 三枚目の壁を抜けようとしてる!」「今だ、斉射!」


被害、ゼロ。

戦闘が終わった広場、村人たちが口々に感謝を述べる。

「気づかなかった……あんたたちがいて助かったよ」

「すごいな、獣人の鼻ってのは本物だ」


「……はは、俺たち……役に立ってるのか」

ガルムが、震える自分の手を見つめて呟く。


「当たり前だろ! お前らがいなきゃ、今頃村は穴あきチーズだぜ!」

カイゼルが陽気に笑い、ガルムの肩を叩く。


「戦えるからこそ、守れる。お前らの野性は、この村の『平和の鍵』なんだ。――これからも最高の仕事を頼むぜ、防衛隊のエース!」


夕方、村の境界を見張る獣人の背中は、朝よりもずっと大きく、頼もしく見えた。

種族の特性を「役割」に書き換える。カイゼルの設計図は、また一つ、村を盤石な要塞へと進化させていた。


「止まらないぜ、俺たちの仕組みは! 未来の設計図は、今や獣人の五感と完全に同期してるんだからな!」


カイゼルの笑い声が、森を揺らす風に乗って明るく響き渡った。

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