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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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3:鑑定――すべてが不足

朝の光が畑に落ちる。


昨日より、わずかに柔らかい。

水路が機能し始め、土に“湿り”が戻っていた。


「おー、いいね。死んでた土がちょっとだけ生き返ってる」


カイゼルは畑の中央でしゃがみ込み、土を指でつまんだ。


指先で軽くこすり、匂いを嗅ぐ。


「……うん、まだクソだけど、昨日よりはマシ」


遠慮がない。


後ろで腕を組んでいたエルダが呆れたように言う。


「朝からそれか」


「正直な感想だろ?」


カイゼルは立ち上がり、軽く伸びをする。


「さて、今日もやるか。“全部足りてない”のをどう埋めるかゲーム」


「ゲームじゃない」


「気分の問題だ。重く考えると動き止まる」


そう言って、目を閉じる。


――鑑定。


土の粒子。

水分の偏り。

根の状態。

病の広がり。

虫の位置。

風の流れ。

人の体調。

食料の残量。

疲労。恐怖。希望。


一瞬で並ぶ。


「はい、結果出ましたー」


目を開ける。


「全部足りない」


エルダが鼻で笑う。


「見りゃ分かる」


「“見える”のと“使える”は違う」


カイゼルは地面を指でなぞる。


「ここ、水多い。あそこ少ない。バラバラ」


「それで?」


「均す。じゃないと根が死ぬ」


振り返って声を上げる。


「おーい、水門担当ー!」


男が慌てて走ってくる。


「三つに分ける。時間で回す。朝東、昼中央、夕西」


「そ、そんな細かく……」


「できるか?」


被せるように聞く。


男は一瞬迷い、歯を食いしばる。


「……やる」


「よし採用」


軽い。


だが、その一言で決まる。


「失敗してもいいから回せ。止めるな」


カイゼルはすぐ次へ行く。


家畜小屋。


痩せた牛、元気のない鶏。


「うわ、これはひどい」


「餌が足りないんだ」


村人が言う。


「足りてるよ」


即答。


「……は?」


「量じゃない。配り方が終わってる」


カイゼルは指をさす。


「弱いやつ優先。強いやつ後回し」


「でも――」


「全部死ぬよりマシだろ?」


言い切る。


「回復したら戻す。それで全体が持つ」


エルダが横から言う。


「情はないのか」


カイゼルは肩をすくめる。


「あるからやるんだろ」


間髪入れない。


「全部助けようとして全部死ぬのが一番ダメ」


少しだけ空気が静まる。


そのとき――


「鍋が空だ!」


広場から声。


カイゼルは振り向く。


「はい次の問題来たな」


歩き出す。


「狩猟班は?」


「出てる!」


「戻るまで待たない」


革箱から袋を取り出す。


「非常食タイム」


中身は乾燥草と粉。


「それ食えんのか?」


「食えるようにするのが仕事だ」


鍋に水を張る。


草を入れる。


火を弱く。


「ポイントはな、無理にうまくしようとしないこと」


かき混ぜる。


「まずは“持たせる”。味は後」


子どもが顔をしかめる。


「にがい……」


「だろうな」


カイゼルは笑う。


「じゃあ改善タイム」


塩を少し。


昨日の出汁を少し。


「はい、これでどうだ」


一口。


「……あ、さっきよりいい」


「だろ?」


軽くウインクする。


「人間な、ちょっと良くなるだけで頑張れる」


そのとき、狩猟班が戻る。


「獲れたぞ!」


中型の獣。


「いいじゃん」


カイゼルは頷く。


「昨日より早いだろ?」


「全然違う……」


男が驚く。


「やり方変えただけだ」


さらっと言う。


「足りないのは量じゃない。“回し方”」


エルダが繰り返す。


「回し方、か」


「そう。才能なくても勝てる方法」


エルダは少しだけ考える顔をした。


カイゼルはもう次へ行く。


乾燥庫。


肉が吊るされ、煙が通る。


「おー、いい感じ」


「これで腐らないのか?」


「遅くなる」


訂正する。


「ゼロにはならない。でも“時間が増える”」


村人が頷く。


「それだけで全然違うな……」


「だろ? 時間は資源だ」


軽く言う。


そのまま家々へ。


「ここ閉じる。ここ開ける」


土で隙間を埋める。


風を通す。


「家もやるのかよ」


「全部やる」


即答。


「回ってないとこ全部対象」


そのとき、子どもが転ぶ。


「うわっ!」


膝から血。


母親が慌てる。


カイゼルはしゃがむ。


「はいはい、軽傷軽傷」


水で洗う。


光で浄化。


「終わり」


子どもが瞬く。


「……痛くない」


「だろ?」


軽く笑う。


その笑顔が周りに広がる。


エルダが呟く。


「……医者もいないのか」


「いるだろ」


カイゼルは立ち上がる。


「ただ動いてないだけ」


「見つけるのか」


「使う」


即答。


「使わないと全部足りないまま」


午後。


水路がさらに伸びる。


土が変わる。


人の動きも変わる。


「次は何だ?」


誰かが聞く。


カイゼルは即答。


「順番」


「焦るな。回せ」


それだけで場が落ち着く。


夕方。


灯りが増える。


配置も整う。


鍋が煮える。


肉が焼ける。


子どもが走る。


「今日、楽だったな」


誰かが言う。


「昨日よりは」


笑いが起きる。


カイゼルはそれを見て、小さく息を吐く。


エルダが横に立つ。


「不足は終わらない」


「ああ」


「どうする」


カイゼルは肩を回す。


「潰す」


一言。


「一個ずつ」


エルダは少しだけ笑う。


「……単純だな」


「単純じゃないと回らない」


夜風が吹く。


灯りが揺れる。


絶望はまだある。


だが――もう“ぼやけた恐怖”じゃない。


「名前ついたな」


カイゼルは空を見上げる。


「不足」


そして笑う。


「なら埋めればいい」


それだけの話だった。


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