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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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22/130

22:捕縛システム実験

盗賊の襲撃を退けてから、三日が過ぎた。

村の空気は、勝利の余韻に浸るどころか、これまで以上にピンと張り詰めている。

一度起きたことは、二度起きる。そして次は、もっと狡猾で、もっと強力な「悪意」がこの村の輝きを奪いに来るだろう。


「おーい、野郎ども! 昨日の勝利に酔いしれて寝ぼけてる奴はいないか? 運が良かっただけで勝てるのは一回きりだぜ。二回目は『実力』、三回目は『仕組み』で勝つのがカイゼル流だ!」


カイゼルの快活な声が、朝の広場に響き渡る。

中央には、エルダ率いる防衛班、マリナの商会チーム、そしてリナの医療班までもが顔を揃えていた。


「いいか、今日のテーマは『おもてなしの心』だ。招かれざる客が来たら、二度とおうちに帰りたくなくなるような、最高の拘束サービスをしてやろうじゃねえか!」


カイゼルは不敵に笑うと、地面に突き立てた魔法の杖を支点に、流麗な円を描いた。

土の粒子が光を帯び、複雑な幾何学模様となって地面に沈み込んでいく。


「殺さず、逃がさず、確実に制圧する。名付けて『カイゼル式捕縛システム・プロトタイプ』だ!」


「捕縛、ね。商売でも一番大事なのは、客を逃がさないことよ」

マリナが扇子を揺らしながら、冷徹な美貌を綻ばせる。

「情報は漏れれば敵になるわ。捕まえて、働かせて、利益に変える。……ふふ、効率的だわ」


「ははっ、マリナの算盤そろばんは今日も絶好調だな! エルダ、軍曹の目から見て、この『罠』はどうだ?」


隣で腕を組んでいたエルダが、地面の紋様を凝視する。

「……見えない防御は、物理的な壁より遥かに厄介だ。だが、カイゼル。これでは味方もかかるのではないか? 乱戦になれば自分の首を絞めるぞ」


「おっと、そこは抜かりないぜ! こいつには『鑑定』の仕組みを組み込んである。村の連中の魔力波長は登録済みだ。味方はスルー、部外者はキャッチ! 差別化こそが文明の利器ってやつさ」


リナが興味深そうに装置の端を突つく。

「魔力の違いを瞬時に判別して土を動かす……。発想は薬の抽出に近いわね。不純物(敵)だけを取り除くわけだわ」


「その通り! さあ、能書きはいい。まずは実験だ! エルダ、適当な生贄……じゃなかった、優秀なテスターを選んでくれ!」


エルダの指示で、民兵たちが二手に分かれた。

「攻め側三名、守り側五名。実戦形式だ。手加減は無用、全力で突破してみろ!」


実験が始まる。村の外縁、木々に紛れるように設置された捕縛陣のエリアへ、攻め側の若者たちが慎重に足を踏み入れる。

だが、その慎重さを嘲笑うかのように、一歩、境界線を越えた瞬間――。


「うおっ!? なんだこれ、足が動かねえ!」


ズブズブと地面が意志を持った蛇のように這い上がり、若者の足を膝までガッチリと固定した。

「位置確認! 東側第一ポイント、一人捕縛キャッチ!」


「よし、射線確保! 撃て!」


守り側が即座に反応する。

高圧のウォーターバレットが放たれ、身動きの取れない「客」の胸元に直撃した。

ドォン! という衝撃と共に、若者は泥の中に沈み込む。


「終了! 完璧だ、今の連携!」

カイゼルが陽気に指を鳴らす。


「……無理だ、これ。踏むまで全くわからねえぞ」

解放された若者が、苦笑いしながら泥を拭う。


「だろ? だが、これはまだ第一段階だ。次は夜だぜ。闇の中じゃ、人はもっと視覚に頼る。そこを狙い撃ちにするのさ!」


夜。

灯りの魔道具が村を照らしているが、防衛線の外側には意図的に「影」が作られている。

盗賊なら必ず通るであろう、その影の道。


「開始!」


エルダの低い号令。

今度は五人の攻め側が、連携を組んで分散突破を狙う。

しかし、仕組み(システム)の前では、個人の小細工は無力だった。


パシュッ、という微かな魔力の作動音。

「二人目、中央で拘束!」

「カバー入れ! 逃がすな!」


守り側の動きには、迷いがない。

一人が拘束された瞬間、周囲の仲間がどこを警戒し、誰が追撃すべきか。

カイゼルの「振り分け」が、ここでも機能していた。

個人の強さに頼るのではなく、誰がその場に立っていても同じ成果を出せる「防衛のパッケージ」。


「……いい。形になっている」

エルダが、暗闇の中で満足げに呟いた。


「当然だろ。人と仕組みが噛み合えば、夜の恐怖なんてのはただの暗いカーテンに過ぎない。俺たちの手で、この村を不落の城塞システムに変えてやるんだよ!」


訓練は深夜まで続いた。

誤作動や感知のラグが出るたび、カイゼルはその場で魔法陣を書き換え、リナが魔力の安定度をチェックし、エルダがより実戦的な配置へと修正を重ねる。


「マリナ、このシステム、いずれは外へも売り出せるようになるかな?」


「ええ、完成すればね。でも……」

マリナは夜の地平線を見据え、少しだけ瞳を鋭くした。

「価値が上がれば上がるほど、それを力尽くで奪おうとする者たちの質も上がるわ。この仕組みが、彼らの絶望に変わる日も近そうね」


「ははっ、そいつは楽しみだ! 絶望を燃料にして、さらにいい仕組みを作ってやるさ」


カイゼルは最後の一基を調整し終え、大きく伸びをした。

灯りに照らされた村の道は、一直線に伸び、その先にある暗闇すらも、今は「制御下にある空間」に見える。


「一つ進んだな、エルダ」


「ああ。守るすべが増えるたび、村の連中の背筋が伸びていくのがわかる。……戦えるな、私たちは」


「ああ、十分だ」


夜の静寂の中に、魔道具が放つ微かな「守りの息吹」が響いている。

恐怖に怯えていた村は、もうどこにもない。

自分たちの役割を知り、仕組みを使いこなし、互いの背中を預け合う。


「捕縛完了! 訓練終了だ! 全員、明日の美味いメシのために、今日はぐっすり眠れよ!」


カイゼルの陽気な声が、夜空に響き渡る。

小さな成功の積み重ねが、やがて巨大な安心インフラへと変わる。

村は、かつてないほど強固な「形」を手に入れ、未知なる明日へと再び回りはじめた。

仕組みは止まらない。そして、それを支える人々の意志もまた、止まることはないのだ。

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